物忘れが続くと「認知症では?」と不安になる人も多いだろう。しかし、心配のいらない、老化による物忘れかもしれない。
記憶力にかかわる脳の神経細胞の数は、一般的に加齢にともなって減少する。そして、60~70歳を過ぎるあたりには神経細胞の全体量が少なくなり、年相応の物忘れが起きる。
浴風会病院精神科の須貝佑一医師はこう話す。
「年相応の物忘れは神経細胞の減少の数やそのスピードがゆるやかで、年月を経ても日常生活に支障はきたしません。一方、認知症では神経細胞が急速に減少することなどから、物忘れだけではなく、物事の判断力や理解力など、さまざまな能力の低下があらわれます。この結果、日常生活が難しくなってくるのです」
物忘れに症状を限定していえば、年相応の場合は、本人に忘れっぽくなったという自覚があり、メモを取るなどの対策をとる。一方、病的な物忘れでは忘れたこと自体を忘れてしまうため、自覚に乏しく、家族や他人から、受診をすすめられることが多い。このような状態と、さらには、認知症の手前の状態であるMCI(軽度認知障害)を自分で見分けることは難しいため、専門の医療機関で診てもらうとよいだろう。
須貝医師の外来ではMMSE(ミニメンタルステート検査)を中心とした神経心理テストと、MRI(磁気共鳴断層撮影)、脳波などから診断をおこなう。必要な場合には、脳血流変化の有無をみるSPECT(単一光子放射断層撮影)も実施する。
同科の物忘れ外来を受診する初診患者のうち、認知症と診断されるのはおよそ20%、残り80%のうち半分の人がMCIで、もう半分は年相応の物忘れだという。