JR目黒駅の中央改札口を出た。「徒歩1分」は相当近いはずだが、タワマンの気配はない。だが東口に出ると、ほとんど駅前ロータリー沿いで、10階相当の高さまで建設されたむき出しの鉄骨が現れたではないか。鉄骨はオフィス棟のもので、二つの住宅棟は奥にできる予定。実際に住宅棟の予定地付近から中央改札口まで歩いてみると、1分52秒。これは便利どころの話ではない。すでに「完売」だった。
駅近についてこんなアドバイスもある。不動産経済研究所主任研究員の松田忠司さんが指摘するのは、都心との距離感だ。「千葉県だと松戸よりも柏、市川よりも船橋、埼玉県であれば戸田よりも大宮のほうが賑わっている。首都圏でいえば、下手に東京都心に近すぎる周辺都市だと、逆に人の流れは東京に吸い取られてしまう。周辺部であれば、ある程度遠くに離れた主要ターミナル駅のほうがベターでは」と話す。
さて「値崩れ」の法則の話に戻ろう。相続対策の節税効果だけで見るならば、実は普通のマンションはタワマンに比べても遜色ないという。それでも選ぶべきは「やはりタワマン」らしい。それはなぜか。スタイルアクトによると、マンション購入による資産評価額の圧縮効果は、タワマンが平均で83%、普通のマンションだと同79%。この差も実際にかかる相続税率をかけあわせて考えれば「誤差」の範囲に収まる。むしろタワマンが「値下がりしにくい」点こそ注目すべきというのだ。
もともとタワマンは、低層階の価格を抑えるため、高層階の価格を高くする傾向があり、全体平均で見ても1割ほど高く発売するのが相場。相続対策のための圧縮効果ばかりに注目すると、高値の高層階を買うほうがいいように思えるが、「低層階」のほうが値崩れしにくいという。沖さんは言う。
「新築時は、煽られて、みんなが同じところを買おうとする。中古になると、実物を見て、冷静に判断し始める。中古はリアルな価格にまで落ちるので、結果的には低層階のほうが下落幅は小さくなるんです」
タワマンが全体として価格が落ちにくい理由もある。というのも、相続対策で購入する人は「節税という下駄を履いているので値切らずに買う傾向がある。相続後に売却されれば、次の買い手も相続対策で高値買い、というサイクルになり、高額のまま推移する傾向にあります」(沖さん)。
※週刊朝日 2015年11月13日号より抜粋