今年6月に、山形県のサクランボ農家を訪れた両陛下 (c)朝日新聞社 @@写禁
今年6月に、山形県のサクランボ農家を訪れた両陛下 (c)朝日新聞社 @@写禁
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 天皇、皇后両陛下の知られざるエピソードを皇室担当記者がお伝えする。

天皇陛下の「しっぽ」

 数年前のことですが、天皇陛下が車に乗り込む場面で、護衛官がドアを閉めた際、モーニングコートの後ろの裾を挟んでしまいました。天皇陛下は自らドアを開けながら、「しっぽが」と笑顔で話されたそうです。

 両陛下の取材を続けていると、ふとした場面で「気遣いの人」であると感じます。あるとき、皇宮警察官がテニスのお相手をしていると、打ち返した球のバウンドが変わって、皇后さまの顔に当たってしまったことがありました。でも、皇后さまは「大丈夫よ。手を当てていると治るの」と気遣ってくださったそうです。

◆エスカレーターを使わないわけ

 両陛下はエスカレーターを使いません。エレベーターは利用しますが、エスカレーターがある場所でも階段を使います。理由ははっきりしませんが、昔から利用されないそうです。東京駅の場合、新幹線ホームに上がる階段は段数が多く、高さもあります。両陛下は支え合うように階段を上り、励まし合うように声をかけ、一段一段ゆっくりと歩みを進めます。途中、陛下は皇后さまの負担を気遣ってか、一緒に足を止めて休憩することもあるそうです。

◆天皇陛下の駅弁

 両陛下が新幹線を利用される際の楽しみの一つが、駅弁です。鉄道関係者によると、陛下は東京駅などで販売しているチキン弁当が好物のようで、皇后さまと一緒に召し上がることもあるそうです。伝統ある駅弁で、ケチャップ味のチキンライスに鶏のから揚げが入り、家庭的な味だと幅広い世代に人気の商品です。陛下がカレーライスを好むのは有名な話ですが、庶民的な味がお好きなようです。

◆ご夫妻としての一場面

 文化や芸術を大切にされる両陛下は時々、都内の美術館に視察に出かけます。

 今年5月4日には、都内のブリヂストン美術館の「ベスト・オブ・ザ・ベスト」展を訪れました。国の重要文化財4点を含む洋画など153点が展示された会場に足を踏み入れると、陛下はおもむろにめがねを取り出しました。寄り添ったお二人は、それぞれの絵の前で話が弾んでいます。

 ゴーギャンの風景画の前では、天皇陛下が、皇后さまのお印である白樺の木が描かれていることに気付き、「これは白樺かしら」とほほえみます。皇后さまからは「ふふふ」と、かすかな声が聞こえました。

 青木繁の「海の幸」や藤島武二、安井曾太郎らの名画が並んだ部屋で、皇后さまは「こんなに、一部屋の中で見られるなんて」と感激したようにつぶやいていました。天皇陛下が、芸術に詳しい皇后さまを楽しげな笑顔で見つめていたのが印象的でした。

 折しもゴールデンウィーク中。休日を過ごすご夫婦のような一場面でした。

週刊朝日  2015年8月28日号より抜粋