「(相手投手の)握りがチェンジアップぽかったんで狙いました。打った瞬間、入ったと思いました。映画みたいに、ちょっとの時間、空白があって、ワーッという大歓声が聞こえてきた。想像していたのとはちょっと違う感じでした」
投手の握りを一瞬で確認して狙い打つとは、どんな動体視力をしているのか。
くだらない記者の質問にはさらりと答え、的を射た質問には言葉を尽くす。自分が何を発すればどう報道されるかも、16歳にして心得ているのだ。
六回には2死満塁のチャンスで打順が回ってくる。右手でバットを担いでバッターボックスに入り、腰をくねくねさせるいつものルーティン。やはりチェンジアップを右前へはじき返し、走者を一掃した。
「(チャンスの場面で)おいしいな、と思いました(笑)。自分、まだまだこんなもんじゃないんで、満足はできません」
試合後の村中監督は、数時間前とは評価を一変し、3長打5打点の清宮に対しお手上げの表情だった。
「清宮君ひとりに打たれましたね。華麗さは原辰徳のほうが上。ここ(甲子園)で打つんだから、清宮君はスター性がある。そのスター性をどこよりも作ってしまったのが、うちかもね」
怪物伝説は、始まったばかりである。
※週刊朝日 2015年8月28日号