ライヴ・イン・スペイン1985
ライヴ・イン・スペイン1985

第2弾「フィルモア木曜日」までのツナギとしての2枚組ライヴ
Live In Spain 1985 (Cool Jazz)

 マイルスの新音源に関しては、公式・非公式を問わず、今年は「フィルモア」にトドメを刺すだろう。現時点で初日の水曜日しか出ていないが、近く発売されるであろう木曜日は完全未発掘だっただけに熱い話題と支持を集めるのは必至。「早く来い来いお正月」と歌うのはまだ早すぎるが、そろそろ「早く来い来い木曜日」と歌ってもいいころなのではないだろうか。一刻も早い登場を切望したい。

 さてその前にというわけでクール・ジャズから登場したのが、2枚組『ライヴ・イン・スペイン1985』というわけ。ジャケットでトランペットをかまえているマイルスの頭部がムチャクチャな状態に陥り、どうしてマイルスは「まずはお電話ください」とテレビで連呼している社長の会社に連絡しなかったのだろう。裏ジャケではさらにすごいことになっています。

 このライヴは俗称「頭部ハチャメチャ時代」といわれていた時期にスペインで行なわれたもの。「スペインの印象」ならぬ「頭部の印象」ばかり語られることが多いが(語っているのはワタシだけという噂ですが)、陣容的にはボブ・バーグ、ジョン・スコフィールドががんばり、ロバート・アーヴィングとダリル・ジョーンズが屋台骨を強靭なバネでもって支えていた時代、それはもう鉄壁のマイルス・バンドが聴ける。とはいえいささか音質はコモリのオバチャマ(懐かしい!)に近く、開放感に欠けるかも。

 レパートリー的には、当時の最新作『ユア・アンダー・アレスト』を中心に、その他ととして《コードMD》や《デコイ》といった必殺のマイルス・チューンを散りばめたもの。むしろこの2曲を目当てに聴く人がいるくらい、このあたりのレパートリーは潜在的ファンが多く、また人気も高い。人によっては「マイルス最後のジャズ・レパートリー」と評されることもある。たしかにそうかもしれないし、そうでないかもしれない。つまりこの時代のマイルスは、ソロ内容しだいでジャズにもなればポップスにもブラコンにもなるというアバウトな側面があり、なかなかに断言しがたいのであります。そしてこのライヴは、かなりジャズに傾倒している。そう、じつにハードボイルドでかっこいい。「フィルモア木曜日」が出るまで、これを聴いて楽しみながら待つことにしましょう。それでは、また来週。

【収録曲一覧】
1 One Phone Call/Street Scenes-Speak
2 Star People
3 Maze
4 Human Nature
5 Something's On Your Mind
6 Time After Time
7 Ms. Morrisine
8 Code M.D.
9 Pacific Express
10 Katia
11 Hopscotch
12 You're Under Arrest
13 Jean Pierre-You're Under Arrest-Then There Were None
14 Decoy
(2 cd)

Miles Davis (tp, synth) Bob Berg (ss, ts) John Scofield (elg) Robert Irving (synth) Darryl Jones (elb) Vincent Wilburn (ds) Steve Thornton (per)

1985/7/11 (Spain)