「自宅で食事介助を行う家族の負担はとても大きい。誰かが介護を背負いすぎていないか、私たちが助言しながらその感情変化を読み取りつつ、見守っていきたいと思っています」

 のみ込むリハビリでも改善が見られない場合は、のどを手術して口から食べられるようにする方法もある。

 毎週月曜日、杏林大学病院(東京都三鷹市)で30分、リハビリを受けているコウジさん(仮名・74歳)は昨年6月末の脳梗塞発症後、痛みや熱さなどがわからなくなる感覚神経の障害で唾液さえのみ込めなくなり、胃ろうになった。

 リハビリ病院で食べる訓練を受けても一向にのみ込み機能は改善せず、退院の際、医師に「胃ろうは外せないかもしれないが、噛む力は残っているので口から物を食べられる可能性はある」と言われ、紹介状を手に嚥下の手術をしてもらうために訪ねたのが杏林大病院の唐帆健浩・耳鼻咽喉科・頭頸科准教授だ。今年1月に手術を受けた。

「脳梗塞などの後遺症で食道の広がりが悪くなったが、認知機能には問題がなく、のみ込む力が保たれていれば、嚥下機能改善や誤嚥(ごえん)防止を目的とした手術など、いくつかの選択肢があります」(唐帆准教授)

 嚥下機能改善の手術には、食道の入り口を縮める輪状咽頭筋を切断して食道の通りをよくする「輪状咽頭筋切断術」と、喉頭と舌骨を吊り上げて食道の入り口を広げる「喉頭挙上術」の二つがある。コウジさんはこの両方の手術を同時に受けた。どの手術が適しているのかは本人の意向を踏まえ、医師が慎重に判断するという。

 コウジさんは術後1週間でのみ込むリハビリを開始した。まずとろみをつけた水を注射器で吸い、5ccだけ舌の上へ。むせずにのみ込めるようになったらヨーグルト、さらにミキサー食と、リハビリはゆっくりと段階的に進んでいった。

「いずれカレーライスやおすし、肉など、何でも食べられるようになって胃ろうを外したい。そう思えばリハビリにも身が入ります」(コウジさん)

週刊朝日 2015年5月1日号より抜粋

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