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 女性は、月経、妊娠・出産、更年期に応じてホルモンバランスが大きく変動する。それにともない経験する心とからだのさまざまな不調に、漢方が役立つ場面がある。

 代表例が「冷え症」だ。一般に、通常の人が寒さを感じない程度の温度環境なのに、全身やからだの一部に異常な冷えを感じやすい症状を指す。女性は熱産生を担う筋肉が少なく脂肪が多いため、男性より冷え症になりやすい。さらに現代人は、痩せるためのダイエット、運動不足、夜型生活、ストレス過多など、冷えを引き起こしやすい環境で生活している。女性では7割、男性では1割が冷えに悩まされているといわれる。

 西洋医学では「冷え症」は病気とみなされず、原因となる基礎疾患がなければ治療の対象とならないが、漢方医学では「冷えは万病のもと」と考え、治療すべきものとして重要視する。

 つくばセントラル病院の岡村麻子医師は、冷え症の弊害についてこう話す。

「からだが冷えると血のめぐりも悪くなり、免疫力の低下や自律神経の失調、ホルモンバランスの崩れを引き起こして、身体のさまざまな不調の原因となります。漢方医学では血の流れが滞った状態を『瘀血(おけつ)』と呼びます。女性では月経のトラブルや不妊症、更年期障害など、多くの病気の裏側に、『冷え』や『瘀血』が隠れています」

 冷え症の治療で別の問題が解決した例を紹介しよう。

 Aさん(32歳、主婦)は結婚3年目。妊娠を希望して近くの婦人科に通い、タイミング法をおこなって2年が経ったが、妊娠しないため、漢方治療を希望して岡村医師の診察を受けた。

 体質的にはいつも手足が冷えていて、むくみがち。夏でもレッグウォーマーや腹巻きが欠かせないほどの冷え症で、顔色は青白かった。岡村医師が漢方医学的に診察すると、おなかの表面に触れる「腹診」では腹部が冷たく、みぞおちを押さえるとポチャポチャと音がする。左下腹部に、瘀血に特徴的に現れる圧痛点もある。両手首の脈に触れる「脈診」では、脈が弱い。舌を診る「舌診」では、舌が肥大して縁に歯の痕がある。

 これらの所見から、血が不足して「血虚(けっきょ)」となり、水の代謝が低下している「水毒(すいどく)」と診断された。

 血を補い、水の代謝を改善する効果のある漢方薬である当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)を投与したところ、Aさんは1カ月後に冷えとむくみが消失した。2カ月後には妊娠が判明。その後も、安胎効果のある当帰芍薬散の服用を継続。無事出産に至った。

 漢方では、からだは「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」の三つで構成されていると考える。気は、気力、元気、やる気といった生命エネルギー。「血」は血液やホルモン系の機能。「水」は、血液以外のすべての体液を指す。

「からだが冷えて、気・血・水のめぐりが悪くなった状態を漢方薬で改善することで、バランスの取れた心とからだを作り、そこに生命が宿ります」(岡村医師)

 女性によく使われる漢方薬の3大処方に、当帰芍薬散・加味逍遙散(かみしょうようさん)・桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)がある。いずれも血のめぐりを改善する効果に優れ、月経痛や不妊症など、幅広い女性疾患に有効だが、それぞれの患者の体質や症状に合わせた使い分けが必要だ。

週刊朝日 2015年4月3日号より抜粋

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