フランスでのテロへの関与も疑われるイスラム過激派組織「イスラム国」。シリアやイラクで殺人や誘拐を繰り広げ、民間人の死者は1万人ほどともいわれる。イラクでは逃げ出した人々の難民キャンプが急激に増えている。イラクで難民支援を続ける医師、鎌田實さん(66)が最新の現地状況をリポートする。

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 ぼくがイラク第2の都市モスルから100キロ離れた、米国人もたくさんいる都市アルビルに入って異様に思ったのは、至る所にクルド人自治区の軍隊が検問所を構えていたことだ。検問は厳しい。兵士らに聞くと、

「アルビルの北10キロ先ではイスラム国の軍隊と戦闘が行われている。彼らは最新の戦車や装甲車も配備している」

 と話す。イスラム国の軍隊は、金持ちを誘拐しては身代金を奪ったり、若い男女を連れ去って兵士にしたり、奴隷のようにするという。

 彼らは凶悪で、言うことを聞かないと、足や手を切断する。足を銃撃された民間人も多い。逃げるときに多量の地雷を仕掛けていく。難民キャンプには足や手がない難民たちがたくさんいた。ぼくらは「希望の足プロジェクト」も進めていて、被害者を治療して義足をつける支援もしている。

 難民キャンプは簡易テントなどで作られているところが多い。国連などが食料支援をしているが、砂漠の中なので夜はとても冷える。日本イラク医療支援ネットワーク(JIM−NET)では寒さをしのぐために1家族に2枚ずつ毛布を配ってきた。

 ぼくらは被災地や難民キャンプに行ったとき、何がいちばん必要とされているのかをいつも考えて支援してきた。10年前からイラクの子どもたちを守るために、アルビルを拠点に四つの病院に小児がんの薬を配るなど約4億円の支援活動をしてきた。しかし、12年からはイスラム国の攻撃から逃げてきた難民の母子支援にも積極的に取り組んできている。

 ぼくがいちばんビックリしたのは、年が明けて1月2日に、アルビルから北西に車で3時間半走ったドホークという町のクルド人の難民キャンプに行ったときのことだ。

 
 イスラム国の軍隊に迫害されたヤジディ教徒らがたくさんいた。ぼくが会ったのは自宅が襲われ、両親ときょうだい、合わせて6人がイスラム国軍隊に連れ去られた家族だった。13人家族だったのに、小さな子どもたち6人で生活していた。残った13歳のハサル君は、

「もう一人の年長の兄はイスラム国と戦うためにクルド軍に参加した」

 と言った。

 6人は元気だったが、ショックからか、ほとんど言葉をしゃべれなかった。

 3歳になる娘を連れ去られた42歳の母親アイダさんの呆然とした顔も忘れられない。国連イラク支援団(UNAMI)は、イスラム国の攻撃で犠牲になったイラク市民が9300人以上になるという調査結果を発表している。イラク政府関係者は言う。

「これまでにイスラム国の兵士に殺害された民間人は数知れない」

 難民キャンプにいた人たちはもちろん、世界各国からイスラム国に対する批判は高まっている。現地で聞くと口々にこう言った。

「彼ら過激な原理主義者は異常だ。あいつらがシリアとイラクをズタズタにした」

 ぼくはアラブに10年間通って、イスラム教徒にはいい人たちが多いと思っている。もちろん、凶暴な過激派原理主義者を除いてだが……。

週刊朝日 2015年1月30日号より抜粋