91年のドラフト1位でヤクルトスワローズ(現・東京ヤクルトスワローズ)に入団。メジャーリーグにも挑戦し、13年9月に引退。6度のリーグ優勝、5度の日本一を経験した石井一久さん。作家・林真理子さんとの対談でプロ野球選手について独自の考え方を語った。
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林:やっぱり優勝は格別ですか? 石井さん、何度もリーグ優勝や日本一を経験されてますが。
石井:うれしいですね。シーズン140試合以上ある中で、1勝した笑顔ってそんなにはじけないですけど、優勝したり日本一になったりしたときには、みんな最上級の笑顔になるんです。それを見るのが好きで、自分もハッピーな気持ちになるんです。
林:相手チームがハッピーになるのも、イヤじゃないんですか。
石井:「次は自分たちが」とは思いましたが、イヤではないですね。だって、その人たちだって頑張ってきたんだから。
林:そうかもしれないけど……。石井さんのそういうキャラクターって、メジャーリーグではどう思われてたんですか。アメリカの人って、闘争心がすごそうじゃないですか。
石井:基本、僕に対する評価は日本と一緒でしたね。ボーッとしてるな、みたいな(笑)。
林:イチローさんみたいにストイックな人を見ると、まったく別世界の人という感じですか。
石井:真逆だと思いますね。僕とは野球へのアプローチの仕方が違う。
林:内心「気取っちゃって」と思ったりとか?(笑)
石井:イチローだけじゃなくて、野球に人生を捧げてる人たちって大変だろうなと思いますね。「もうちょっとラクにやれば?」と思っちゃうんですけど、それはその人のやり方だから批判もしないし、うらやましいとも思わないです。僕は自分の生き方がいちばん合ってるんで、あんなふうに一生懸命になっちゃったら、うまくいかないと思います。たとえば試合中、監督に「まだいけるか」と聞かれたら、「いけます」と答えるのがふつうで、監督も「いけません」という答えが返ってくるとは想像してないんですよ。
林:石井さんは「いけません。疲れました」って言っちゃうんですか。
石井:はい。疲労困憊(こんぱい)してるのに「いけます」って答えるのは、違うと思うんです。そんなところで“オトコ気”を出したって、その積み重ねでケガをして次の年1試合も投げれなかったら、みんなその人の存在を忘れちゃうんです。オトコ気出す人は、選手として短命なんです。
林:なるほど。
石井:毎年コンスタントにやっていくほうがいいと思うんですよね。
林:石井さんは、そうやって22年間やってこられたわけですね。
石井:まあ、ダラダラやっちゃったんですけど(笑)。
※ 週刊朝日 2014年12月12日号より抜粋