将来の“墓守”に不安を感じ、先祖が眠る郷里の墓を撤去して遺骨を自宅近くの墓や永代供養の合葬墓などに移す「墓じまい」をする人が増えている。手続きを代行する業者も登場しているが、寺や親族とのトラブルも少なくない。スムーズで後腐れのない「墓じまい」の方法を紹介する。

 葬祭問題の専門家である日本葬祭アカデミー教務研究室代表の二村祐輔氏によれば、過去にこんなケースがあったという。

「独り暮らしのおばあさんが、田舎にある先祖代々のお墓を引き払って、息子が暮らしている町に移したいと菩提寺に申し出たところ、住職は激怒したうえ、多額の離檀料(800万円と聞きました)を口にしたそうです。毎年の護持会費はもちろん、盆暮れの付け届けも欠かさず納めていたにもかかわらず、です」

 離檀料をめぐるトラブルは裁判沙汰になった例もあるそうだ。では、それに対して家庭裁判所はどういう調停や審判を行ったのか。

「多くは『離檀料』にどのような根拠を見いだせるかが不明確、という判断です。ただ、それ以前に家裁的には檀家と菩提寺の問題に立ち入った判断をしたくないという“配慮”が見られ、当事者同士の折り合いをどうつけるかは、たいへん厄介な問題です」(二村氏)

 寺院にとって墓地は大きな収入源であり、墓じまいで檀家が少なくなることは寺院の“経営”に直結する。だから墓じまいを何とかさせまい、という思惑から、あえて「永代供養」を提案したり、もしくは“手切れ金”としての離檀料を得て、将来の減収分を補填しようという意識があると思われる。住職の欲得だけではなく、寺の存続そのものに危機感を持つ過疎地域も多い、と二村氏は分析する。

 そもそも離檀料に法的な根拠はない。とはいえ、やはり先祖が眠る墓の引っ越しで菩提寺の住職ともめる事態は避けたほうが賢明だろう。では、どうすればよいのか?

 二村氏は「なかには非常にプライドの高い住職もいるので、とりあえずは、丁寧な物腰で、真摯に事情を説明することが肝要です。すんなりと墓じまいをしたいなら、最初から改葬について、第三者的に冷静に対応してくれる行政書士に、代理手続きを依頼することをお勧めします。その際、お墓のことに精通した有資格者が求められます。墓じまいの代行業者も増えていますが、散骨ビジネスや墓石の販売が目的の業者サービスというケースもあるので注意が必要です」とアドバイスする。

“お墓のことに精通した有資格者”という条件を満たす一人が、行政書士キートス法務事務所(東京都国分寺市)の行政書士で葬祭カウンセラーの資格も有する汲田(くみた)健氏だ。行政書士は、冒頭のAさんが苦労した故人の本籍調査も、申請者に代わって行うことができる。

「かなり昔に亡くなった人の本籍を一般の方が調べるのはけっこう大変ですが、行政書士は改葬許可申請書の代理作成を請け負えば、職務上請求で戸籍を追うことができます」(汲田氏)

 高額な離檀料をめぐる問題にも、汲田氏は対応している。

「200万円の離檀料を要求されたお年寄りから相談を受けたことがありますが、私も同席して住職と話し合った結果、30万円になりました。本来、改葬と離檀は別の話ですし、墓埋法に定められているとおり、改葬を許可するのは市町村長で、住職ではありません。そもそも離檀を阻むような行為は、憲法第20条の信教の自由に反すると思います」

 気になるのは改葬許可申請の代理費用だが、汲田氏の場合は5万円から(戸籍取得費用や交通費などの実費は別途)となっている。

週刊朝日 2014年10月3日号より抜粋