東京都在住のAさん(男性・47歳)は8月末、子供と虫捕りに新宿中央公園へ出かけ、十数カ所、蚊に刺された。体の異変に気付いたのは、その1週間後。39度近い高熱が彼を襲い、体の節々が痛みだした。
Aさんは妻に連れられて病院をいくつか受診。2日後にようやく「デング熱」と診断された。強烈な背部痛と関節痛で歩くこともできず、そのまま入院。妻は「都の連絡先に電話しても話し中でつながらない。たいへんでした」と話す。
デング熱の感染の拡大がとまらない。
最初の感染者が確認されたのは8月26日で、9月12日現在、感染者は16都道府県・113人まで増えた。いずれも海外ではなく、国内で感染したケースだ。
国立感染症研究所の統計によると、昨年までの感染者は402人で、すべて海外で感染し、日本で発症したり、診断されたものだ。
「今回の例は、海外の感染症に詳しい埼玉県の小児科医がたまたま患者を診て、『これはデング熱ではないか』と疑った。国立感染症研究所が検査したところ、そのとおりだったのです」(いきさつを知る医療者)
耳慣れない病気の感染拡大に不安を覚える人も多いが、専門家は冷静だ。というのも、「いつ日本で流行してもおかしくない状況」だったのだ。長崎大学熱帯医学研究所所長の森田公一教授は「伏線がある」と話す。
「昨年、日本からの直行便でドイツに帰国した女性が、帰国後にデング熱を発症しており、日本での感染が指摘されていたのです」
森田教授によると、世界的にみてデング熱の流行が続いており、WHO(世界保健機関)は、感染者は年間3千万~5千万人と推測。
「年間2500万人以上が日本と外国を行き来する現状を鑑みれば、海外で感染した人が日本でウイルスを媒介するヒトスジシマカに刺され、国内に病気が広がるのは、十分にあり得ることでした」(森田教授)