人間の生活の基本となる「足」。最近は土からコンクリートなどへの環境の変化から、お年寄りだけでなく、小・中学生まで痛みを訴えて通院するケースが目立つという。足痛から腰痛、頭痛、うつなどの症状を引き起こす場合もあるという。

「10年前と比較して、患者の数は5倍ほど増えましたが、特に小・中学生が親と一緒に来るケースが目立ちますね」

 こう話すのは横浜で40年間、足を専門に診察し、『外反母趾は今すぐ治す!』(自由国民社)の著者でもある、カサハラフットケア整体院の笠原巖院長(65)だ。治療院には、多い日で40人以上の患者が訪れるが、外反母趾や指先が地面に着地しない「浮き指」、巻き爪などを訴える子どもも多いという。なぜ最近、増えているのか。

「大きな原因は足裏の刺激不足です。子どもの足は10歳までに決まると言われていますが、幼いころから靴下で足を覆い、起伏のあるでこぼこな道も、あまり歩かない。踏ん張るという反射が起こらないので、足裏に筋力がつかず、退化するのです。その弱った足で、先端の細いハイヒールや厚底サンダルなどを無理に履くため、さらに足の変形が進んでしまう。変形したまま、元に戻らないこともあります」

 笠原院長の調査などによると、小・中学校によっては約6割の児童・生徒の指に異常があるというから、深刻だ。足の状態が悪化し、病院や治療院に駆け込む人が増える一方、「外反母趾は、ただ指が曲がっただけ」「胼胝(たこ)の痛みも時間が経てば治る」と、気にせず放っておく人も多い。

 しかし、足裏の表面積は体全体の1%ほどだが、かかる重力は歩行時で体重の約3倍、走行時には約5倍にもなると言われている。つまり、体重60キロの人は歩いた際、足裏に200キロ近い負荷がかかる。笠原院長は「不安定な足裏は、膝・腰・首などの体の上部に深刻な影響を与える。自律神経が不安定になる人もいる」と指摘する。

「外反母趾や浮き指になって指先が踏ん張れないと、重心がかかとに偏ります。後ろに倒れないよう背中を丸めたり、首を前にしてバランスを取るため、自然と体に“ゆがみ”が起こる。このゆがんだ部分に、かかとからの衝撃が繰り返されるので、膝や腰などに変形が起こるのです。特に深刻なのは首。大事な自律神経が集中していますが、頭からの重さに加え、地面から繰り返される過剰な衝撃で首の変形から誤作動が起こり、慢性疲労や新型うつになる人もいます」

 特に女性は男性より筋力が弱く、ゆがみの影響を受けやすいため、めまいや頭痛、肩こりなども起こしやすいという。

「これまで40年にわたり、10万人以上の足を診てきましたが、体の痛みや不調を訴える人の多くに、足裏の異常が見られました。足の問題は足だけにとどまらず、二次的な障害を発生させることを、広く知ってほしい」

週刊朝日 2013年7月19日号