北方領土、竹島、尖閣諸島などの領土問題に端を発する新しいナショナリズムの潮流が相当な勢いで広まっている。ジャーナリストの田原総一朗氏は、安全保障を強化することに反対はしないとしながらも、安倍晋三総裁率いる自民党や石原慎太郎前都知事の日本維新の会が、憲法9条の第1項の中核を削除しようとしていることに懸念を抱く。

*  *  *

 第1項にはこう書かれている。

「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」

 つまり、日本は憲法9条で、仮に外交交渉が行き詰まっても軍事力は発動しないと宣言している。自民党や維新の会は、だから領土問題で日本はなめられると捉えているのだろう。自民党は、憲法を改正して自衛隊を「国防軍」に名称を変えると政権公約に明記している。

 かつて、キッシンジャー元米国務長官、旧ソ連のゴルバチョフ元大統領、そして中曽根康弘元首相による公開討論会で、私は司会を務めた。その際、中曽根氏が「日本も憲法改正が必要な時期がきた」と発言した。しかし、キッシンジャー、ゴルバチョフ両氏は「日本は現在のままがよい。だからアジアが安定しているのだ」といった趣旨の返答をした。

 両国とも、この姿勢はいまも基本的に変わりはない。その後、中国が軍事大国になって状況は変わったという見方もあるが、日本経済も中国経済もお互いを抜きにしてはやっていけない関係で、そんなことは中国が一番よくわかっている。

 尖閣諸島の外交交渉は毅然(きぜん)とした態度で臨めばよい。両国の関係は、これ以上悪化のしようがないのである。

週刊朝日 2012年12月14日号