心理学者の小倉千加子氏は、いま多くの専業主婦が抱えているという「憂鬱」について次のように話す。
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先日、3人の専業主婦の人と話をした時に感じたことなのであるが、フェミニズムは一体どんな役に立ったのだろう。
何十年経っても“一見さん”がいる。
「自分だけが損をしている気がするんです」
「結婚前、責任のある仕事を任されていました」
「夫に相談すると『家庭を守ってほしい』と言います」
デジャビューで眩暈(めまい)しそうな話を聞きながら、それでも30年前とは確実な差があることに気がついた。
結婚か妊娠か出産かあるいは第3子出産を機に仕事を辞めた人は、働いていた時と今とを比較すると、昔の方がずっと幸福だったという痛恨の思いがあるのだ。
死を受容する4段階のように専業主婦を受容するのにも4段階があるとしたら、一番苦しいのは「怒りの段階」にいる人たちである。「なぜ自分だけが」という運命の不当に対する怒りは、そういう運命を免れている女性に対する「怒り」に形を変える。
専業主婦が就労主婦に対して怒ってみても何にもならないが、とりあえず「怒り」が具体的な他者に向くのは仕方のないことである。子どもが2人いても仕事を辞めない人がいる。その労働がきちんと評価されている人がいる。そのことで報酬を得ている人がいるのである。
「居場所ですね。自分の居場所を見つけたいんです」
全身から無数の棘が出ていてそれがこちらの肌をチクチク刺すぐらいだから本人はもっと痛いのだろう。
棘の先が鈍くなるにつれ、やがて怒りは長期に亘る抑鬱に変わるのである。
※週刊朝日 2012年11月16日号
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