■2020年の早い段階で新薬承認申請を予定
認知症を根本的に治療する薬の開発は,ことごとく失敗していました。アミロイドβの蓄積は減らせても,認知機能の低下を食い止められなかったのです。
しかし19年、認知症の薬物治療法において、新しい光が差しました。たくさんの臨床試験や治験のデータを解析した結果、「アデュカヌマブ」というアルツハイマー型認知症の治療に有効かもしれないということが判明したのです。
アデュカヌマブは現在のところ、低下した認知機能を戻すことはできませんが、脳内のアミロイドβを減らし,認知症による記憶・判断力の低下を食い止めてくれます。要するに加齢による正常なもの忘れは進んでいきますが、アルツハイマー型認知症による認知機能の低下は止めてくれるのです。
20年、アメリカでの新薬承認申請が予定されています。承認がおりれば、深刻なアルツハイマー型認知症との闘いにおいて大きな一歩となります。
■スーパーセンテナリアン研究から判明すること
また現在、「100歳を超えても認知症でない人」の研究も盛んです。「スーパーセンテナリアン(110歳)研究」は、今までの発想を変えて、あえて健康な方から認知症を解明していこうという動きです。人は100歳を超えると確実に脳内にアミロイドβが蓄積するのですが,この人たちはなぜか認知症にならないのです。生物学的な研究から、加齢にあらがう物質なども見つかりつつあります。
認知症にならないためにできること、また、認知症になってもその進行を食い止めることができる新薬など、人生100年に向けて新しい医療の進歩はまだまだ続きます。明日の第3話では「急増する高齢者のうつ」についてお話しします。(構成/長谷川拓美)
〇馬場 元/東京都出身。1994年順天堂大学医学部卒業。2000年ケンブリッジ大学留学、07年順天堂大学院医学研究科精神・行動科学准教授、11年順天堂大学順天堂越谷病院副診療部長、18年教授。日本精神神経学会専門医・指導医、日本老年精神医学会専門医