第1話で軽度認知障害(MCI)の話をしました。しかし、すべてのMCIが認知症の前駆症状なのではありません。軽度認知障害の患者さんの中には、認知機能障害が治る人もいます。「その患者さんは薬で治ったのでしょうか」と聞かれますが、違います。自然に治ってしまうのです。
認知症の発症や進行のリスクを高める要因として,環境の変化や人間関係などのストレスと、それによって引き起こされる不安や抑うつなどの精神症状も示唆されています。
■アルツハイマー型認知症の薬と新薬について
現在、アルツハイマー型認知症の治療薬は4種類あります。
認知症になると「アセチルコリン」が減少します。これは主に、記憶や学習に関連する神経伝達物質なのですが、このアセチルコリンの減少を防ぐのが「コリンエステラーゼ阻害薬」で、「アリセプト」「レミニール」「イクセロンパッチ・リバスタッチ」の3種類があります。
この3種類は、併用することはできません。イクセロンパッチ・リバスタッチは貼り薬です。認知症の重症度にもよりますが、服用を忘れたり、薬を飲むことに抵抗感のある患者さんには貼り薬がいいかもしれません。
もう1種類は「メマリー」といい、脳内で過剰増加したグルタミン酸の働きを阻害します。この薬は、他の薬との併用が可能です。
もちろん薬ですから、副作用の心配は必要です。コリンエステラーゼ阻害薬の副作用として多いのは吐き気や下痢などの消化器症状ですが、時に怒りっぽくなるなどの精神症状が出る人もおり、貼り薬の場合は皮膚がかぶれることもあります。
メマンチンでは眠気やめまい,便秘などがおこることがあります。
残念なことに、これら4種類の薬は認知症を根本的に治すことはできません。認知症の進行を遅らせるという対症療法であり、認知症が進行してしまうと効果を感じにくくなる患者さんもいます。逆に、認知症の進行を1年ぐらい遅らせる効果が出る患者さんもいます。
フランスでは、2018年8月に「効果が不十分で,副作用にも懸念がある」として、この4剤すべてが保険適用外となりました。このように、効果のある認知症の薬を開発することはとても難しいことなのです。