装用する場合、補聴器は継続的に操作する必要がありますが、高齢者にとってこれは簡単なことではなく、大きな課題です。国立長寿医療研究センターの研究では、認知機能が低下した難聴高齢者の場合、家族の支援があっても半年後に装用できていた割合は24%と、とても低いという結果が出ています。認知機能が低下すると、補聴器操作が家族の支援なしには難しくなってしまう傾向があるのです。
また、80歳以上で初めて補聴器を装用した場合、約32%の人は家族の支援なしに補聴器の着脱操作をおこなうのは困難であり、ボリューム操作は約38%が、電池交換は約21%が困難という報告もあります。
ただし、認知機能が低下する前の60~70代のうちに補聴器操作を習得できていれば、その後に認知症を発症しても習慣的に操作ができることが多いことがわかっています。
「認知症予防のほかに操作性、継続使用の観点からも、とくに中等度難聴であれば補聴器は早めに装用したほうがいいでしょう」(同)
60代以上のとくに男性の場合、軽度難聴があっても聞こえに対する自己評価が甘くなりがちで、自覚のない人も多いといいます。そうした場合、家族など、周囲が気づいて耳鼻科受診を勧めるなどの協力が必要です。早期の耳鼻科受診や補聴器装用は、認知症予防、補聴器操作の安定などのメリットがあるのです。
聞こえが悪くなったら放置をせず、まずは耳鼻科受診、そして早めに補聴器装用を検討しましょう。(文・石川美香子)
※週刊朝日ムック『「よく聞こえない」ときの耳の本[2020年版]』より抜粋