難聴は聞こえの問題だけでなく、認知症とも大きな関わりがある……2017年のアルツハイマー病協会国際会議では、「認知症のうち約35%は糖尿病や高血圧などの予防可能なリスクに起因し、なかでも難聴はそのうちの9%を占める最大のリスク因子である」という報告がされました。脳への刺激がなくなると、情報処理の機能が下がってしまうというのです。
それでは、難聴とそれに起因する認知症を予防するにはどうすればいいのでしょうか。まず検討すべきは補聴器の装用による聴力改善ですが、それも早期に行わなければ、認知機能の低下によって困難になることもあるそうです。週刊朝日ムック『「よく聞こえない」ときの耳の本[2020年版]』で、豊田浄水こころのクリニックの杉浦彩子医師に取材しました。
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豊田浄水こころのクリニックの杉浦彩子医師によると、聞こえが悪くなってきた人は、まず大勢での会話や居酒屋などの騒がしい場所で聞きとりにくさを実感します。耳に入った音は電気信号となり、いくつもの神経を経由して脳の多くの部分を使って処理されますが、大勢での会話ではいくつもの音が同時に耳に入るので、そこから必要な音を聞き分けるために、脳ではより複雑な情報処理が必要になります。
「音としては聞こえるけれど言葉がよく聞き分けられないという場合、難聴と同時に認知機能の低下も進んでいて、脳で音を言葉として処理する能力が落ちている可能性があります」(杉浦医師)
難聴の人が認知機能の低下を抑えるにはどうすればいいでしょうか。じつは認知機能の低下は抑えられることを示唆する研究があり、難聴があっても耳鼻科を受診する人は受診しない人よりも認知症の発症率が低くなることがわかっています。
この「難聴への介入の有無と認知機能の関係」の研究は、ドイツにおいて65歳以上の男女約1万5千人を対象に、5年間にわたっておこなわれました。これによれば、両耳が難聴にもかかわらず耳鼻科を受診しなかった場合、5年後に認知症でない人の割合が少ない、つまり認知症の人が多いということがわかりました。一方、両耳が難聴で耳鼻科を受診している場合、5年後に認知症でない人の割合は、難聴のない人と同程度に多いのです。難聴がある人は、早めに耳鼻科を受診することが大切です。
難聴の程度によっては、耳鼻科で補聴器装用を検討することもあります。補聴器装用と認知機能の関係について、杉浦医師は「認知症の回復・改善というよりは、進行抑制に効くと考えられます」と話します。
「補聴器をつけることで、難聴で脳への音情報の入力が低下している状態よりも、しっかり音を聞くことができます。そのぶん脳に刺激が入るため、認知機能低下の抑制が期待できます」(同)