夫婦で話し合いをしているつもりが、相手を説得しようと「脅しの言葉」を使ってしまっていないだろうか。カップルカウンセラーの西澤寿樹さんが夫婦間で起きがちな問題を紐解く本連載、今回は「話し合い」について解説する。
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今の香港のように、30年前の今頃はヨーロッパが激動の時代でした。今年11月9日、日本では天皇陛下御即位をお祝いする国民祭典をしていましたが、ドイツではベルリンの壁崩壊30周年のお祝いを盛大にやっていました。ベルリンの壁崩壊の8日後には当時のチェコ・スロバキアで無血革命がおこり、共産主義政権が崩壊しました。
その直後にチェコの首都プラハに行った時に感じた問題意識が、私の心理職としての根底にあります。30年前のプラハはうら寒く、人影もまばらな暗い街で、百貨店の棚はガラガラで、食品店の前には寒さに耐える人の長蛇の列ができていました。しかし、そんな苦しい生活の彼らは、バブルだった日本のサラリーマンより幸せそうに見えたのです。その違和感から「人は何のために生きるのか」「何が幸せなのか」とずっと考えています。
チェコ人は「言語の民」とも呼ばれる程、言語能力が高いといわれる民族です。旧ソ連の進駐にも言葉を駆使して抵抗したのは有名ですし、民主化後は方向性の違うスロバキアと話し合いで分離独立しました。話し合いで世界をよくしていこうとする国際会議「フォーラム2000」を開催したりもしています。
話し合いの対極にあるのは暴力です。手さえ出さなければ、広い意味では「話し合い」ですが、「言葉の暴力」を考えると、本当に暴力的な要素を用いずに問題を解決するには、もっと狭い意味での「話し合い」が必要です。
しかし、多くの方が「話し合い」について無意識に誤認しているのは、「話し合い」という言葉に、狭い意味の<本質的に問題が解決する方法>というイメージを持ちながら、実際には広い意味、つまり手は出さないという程度の意味の「話し合い」をしていることです。