「解決策が見つかってない状態がきついですか?」
剛さんは、
「こんな無駄なことに時間を使わないで、一刻も早く正常化したいだけです」
と言います。沙瑛さんにどう感じるか聞いてみました。
「この人は、いつもこうなんです」
と言います。剛さんが理解できたとは思えないので、「『こう』ってどういうことですか?」と聞いてみました。
「無駄って……。この人は、言っていることがぺらっぺらなんです。その場で理屈をこねて解決を押し付けるか、それがうまくいかないと怒ってしまって……、本当の意味でコミュニケーションが取れたと感じたためしがないんです」
すかさず、剛さんは私にこう聞きます。
「コミュニケーションスクールみたいなのに行けばいいんですかね?」
普通に考えれば「スクールに行く」ことが解決策ではなく、「どういうコミュニケーションスキルを身につけるか」のほうが重要なはずです。スクールに行くのはありうる手段の一つにすぎません。さらに「将来どういうコミュニケーションスキルを身につけるか」よりも、今ここで「沙瑛さんが何を訴えたいのかわかる」ことが本当に重要なことです。
このように、剛さんは抽象度が高くてキャッチーな解決策を言いがちなのですが、それこそが沙瑛さんが剛さんをぺらぺらだといっているポイントであることをわかっていただくのには少々苦労しました。
本当の話し合いをするためには、いくつかの前提や能力が必要です。
例えば、私がフランス人に「うな重は関東風より関西風の方が好きだ」ということを伝えたいと想像してみてください。そのフランス人はうなぎも知らなければ、かば焼きも知りません。Googleで画像検索して、この魚をこう料理したもの、と説明すれば外形的には正しい理解がされるかもしれませんが、日本人がうな重に感じるちょっと贅沢なイメージやおいしさの感覚は伝わるはずもなく、下手をすると「ゲテモノ」と思われかねません。仮に、両方のうな重をごちそうしたとしても、関東風より関西風が好きだという感覚をわかってもらえる可能性は相当に低い気がします。