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「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第12回は「狩猟民族と環境問題」について。
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それは僕の性格なのか、旅を重ねるとそうなっていくのか。辺境と呼ばれるエリアを訪ねることが多い。そこで先住民と出会うことになる。
しばらく台湾の秘境温泉を歩いていたが、そこにいたのはタイヤル族、ブヌン族といった台湾の先住民だった。温泉脇で彼らが酒を飲んでいたが、つまみは山のネズミだった。山道に入ろうとすると、日本語を話す先住民の老人からこういわれた。
「ヘビが出るぞ。うまいぞ」
彼らの食生活は狩猟の時代を受け継いでいた。
その後、カナダのユーコン準州から北西(ノースウエスト)準州に向かった。インディアンやイヌイットが暮らす世界である。
9月だった。10月にはサケが遡上(そじょう)し、11月には川が凍結していく。このエリアの多くの土地は北極圏だった。
インディアンは、遡上するサケを捕らえ、薫製にする。その小屋を北極海に向かって流れるマッケンジー川に沿った村で探したが、なかなかみつからなかった。北極海に面したトゥクトヤクトゥクまで辿り着いてしまった。「ARCTIC OCEAN」(北極海)という看板がある岬の脇に、いくつかの薫製小屋があった。小屋のなかには誰もいなかったが、なにかできすぎたシチュエーションに観光のにおいがした。ここまでやってきた観光客に薫製のサケ……。
「10月に入ると、ユーコン川やマッケンジー川をサケがあがってくる。でも、資源保護のために捕獲する数が厳しく制限されているんだ。政府からね。獲ったサケは政府が買いとる。だから昔のようにサケは獲れない。薫製小屋も減ってきたんだ」
途中の商店の前であった中年の男性が教えてくれた。インディアン? と訊くと、タッチョーネといった。インディアンのひとつのグループである。