感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。
感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生が「ワインと健康の関係」について解説したこの連載が本になりました!『ワインは毒か、薬か。』(朝日新聞出版)カバーは『もやしもん』で大人気の漫画家、石川雅之先生の書き下ろしで、4Pの漫画も収録しています。
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さあ、お待たせしました。それではアルコール類の中でも、ワインはどうかという議論をしよう。
昔からワインは健康に寄与する飲み物だと考えられてきた。
ヒュー・ジョンソンの『ワイン物語』によると、ユダヤ教の聖典「タルムード」には「ワインがなくなれば薬が必要になる」と書かれているそうだ。また、同時期(紀元前6世紀)のインドの医学書にもワインが「心と体の活性剤であり、不眠と悲しみと披露を癒し……食欲と幸福感と消化を促進する」と書かれているとか。
■適量を少しずつ飲むなら、ワインは甘美な朝露
ギリシアの哲学者ソクラテスはこう言ったそうだ。「ワインは気持ちを和らげ、心に潤いを与えてくれる。そして心配ごとを静め、休息を与え……われらの喜びを甦らせ、消え行く命の炎に油を注いでくれるものである。適量を一度に少しずつ飲むなら、ワインはこのうえなく甘美な朝露のように、我らの肺に滴り落ちる……。そのときこそ、ワインは理性に何ら害を与えず、快い歓喜の世界に気持ちよくわれらを誘ってくれるのである」(ヒュー・ジョンソン『ワイン物語』より)
ワインが「肺に滴り落ちる」という表現がぼくには興味深い(もちろん、本当は食道から胃に落ちていく)。あと、「適量を一度に少しずつ飲むならば」という条件付けがされているのも興味深い。「では、そうでないときは?」とソクラテス先生に訊いてみたい気がする。