当時のヨーロッパではコレラなどの疫病がしばしば流行し、それは清潔な飲水が安定して得られなかった。そういう意味では殺菌済みのワインは安全な飲料ということはいえたかもしれない。今はそんなことはないが、ぼくが初めてフランスに滞在した1990年代にはフランスでは「水よりワインが安い」時代で、みんな本当にワインをよく飲んでいた。最近はフランスでもワインの消費量がずいぶん減ったと言うけれども。
オーストラリアもよいワインができることができることで有名だ。オーストラリアワインで、特に有名なブランドにペンフォールドがある。創始者はクリストファー・ペンフォールドという医者だった。ワインを飲むと患者が元気になることから、ワイン会社を自分で作ったのだとか。すごいですね。
■抗生物質がなかった時代、ワインは感染症の予防や治療(消毒)に
さて、このように昔からワインは「からだによい飲み物」だとされ続けてきた。その根拠は飲むと快活になること、疲れが取れる(ような気になる)こと、それと抗生物質のなかった時代の感染症の予防や治療(消毒)のためであったと推測される。
また、ワインがカリウムやカルシウムといったミネラルが豊富で野菜や果物と同じ健康効果が期待できる点、アルコールやアミノ酸といったカロリーになる(エネルギー源になる)点、アルコールが唾液や胃液の分泌を促進して食欲増進や消化の促進に役立つであろう点、ストレス解消や熟眠に有効な点、血小板凝集を抑制する(いわゆる「血液サラサラ」効果)点、善玉コレステロール(HDL)の上昇効果といった点もワインが健康によい根拠として指摘されている。
さらに、赤ワインの摂取が心疾患を減らすという意見もある。これはバターたっぷりの食事をとってもアメリカ人のように肥満せず、健康なフランス人の説明として赤ワインやチーズがその原因ではないかという仮説だ。
これを「フレンチ・パラドックス」と呼んでいることはすでに述べた。動脈硬化は低密度リポ蛋白(LDL),いわゆる「悪玉コレステロール」の血管壁への沈着と、活性酸素による酸化効果が原因とされている。なので、抗酸化物質である赤ワインのポリフェノールが動脈硬化の予防、ひいては脳卒中や心疾患の予防に効果があるのでは、と考えられてきた。