ほっとする、には家とか部屋とかという物理的な「場所」と、誰との場所かという「人」、別の言い方をすれば精神的な居場所の2つの側面があります。

 結婚というのは、そのほっとできる人との関係をつくって維持するという、精神的な居場所をつくることです(もちろん、結婚だけが精神的な居場所というわけではありません)。

 佳華さんは、こうおっしゃっていました。

「私は、亨さんがそばにいて幸せにしていてくれれば、場所はどこでもいい(ほっとできる)んです」

 よく、夫婦の関係改善や夫が家に寄り付かなくなることの対策として、家の掃除をして気持ちが休まる環境にするとか、手料理を作るとか、少しセクシーな格好をするとか、というようなことが言われます。それも間違いではないと思いますが、それらは、物理的な場所づくりです。家を買ったから結婚するのではないのと同じように、物理的な箱が先ではなく、精神的な居場所を先に整える必要があると私は考えています。

 お互いの精神的な居場所、つまり「この人のそばにいていいんだ」「この人のそばにいたらほっとする」という感覚をどうやって維持、復活、拡大するかがポイントです。なら、1週間ぐらい猫缶で餌付けして、なでていればそう感じてくれるようになりますが(経験談)、人間はもっと複雑です。相手が一番好む『餌』が何なのか、見極めることが必要です。

 亨さん佳華さん夫婦の場合は、佳華さんが亨さんの不適応感の解決を第一の優先順位にしてくれたことで、「妻はあんなに仲良しだった自分(亨さん)の両親と喧嘩してまで頑張ってくれているんだ」と感じ、「自分もその期待に応えなきゃ」とちょっとプレッシャーにもなっていました。しかし、それを佳華さんに言ったら「期待に応えたくて一緒にいるなら、一緒にいなくていい」と突き放され、改めて、自分はどうしたいのか考えてみたそうです。その結果、「妻のそばにいたい」と心底感じ、次第に「妻のそばにいてもいいのかも……」とも感じるようになったそうです。それは、独身時代を含めて他人との間で感じたことがない感覚なのだそうです。

 会社そばのワンルームマンションを借りた純司さんは、「妻のことは好きですが、妻との家庭が自分の居場所なのかは、もう少し時間をかけて考えてみます」とおっしゃっていました。

 さて、あなたは誰といるときにほっとできますか。(文/西澤寿樹)

※事例は、事実をもとに再構成しています

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