■「実家に居場所がない」学生時代から変わらず
もう一つ、事例を紹介しましょう。亨さん(仮名、40代・会社員)はもともと実家がほっとする場所ではありませんでした。大学に受かると同時に実家から逃げるように家を出て、そのまま盆暮れにも帰らなかったのですが、結婚もしたし、妻の佳華さん(仮名、30代・主婦)は両親と自分より仲良しだし、それなら家の建築費も助かるからと、子どもができるのを機に2世帯住宅にして同居することを決めたのでした。
こういう状況でよくありがちなのは、佳華さんが亨さんの両親とうまくいかなくなることですが、お二人の場合は、そうはなりませんでした。
人懐っこい性格の佳華さんは、亨さんの両親とはすぐに打ち解けて、実の親子のようになりました。亨さんの両親も佳華さんと子どもたちをかわいがってくれました。
しかし、最終的に居場所を失ったと感じたのは、亨さんの方でした。
自分は実家の輪に入れない、と感じるようになってしまったのです。残念ながら、大学に受かって家を飛び出したときのメンタリティーが変わっていなかったのです。そもそも、そういうものは「自然に」変わったりすることはそんなにありません。もちろん、佳華さんが潤滑剤になって頑張ってくれていたので、そこそこの期間頑張れたのですが、それは本質的な変化を引き起こしたわけではなかったのです。
すったもんだの末、亨さん夫妻は、実家を出て、子どもたちと4人で狭いアパートで生活することにしました。家は不自由で狭くなった上に、2世帯住宅のローンと新たに借りたアパートの家賃で生活は苦しくなり、佳華さんも働きに出なければならなくなってしまったことは心苦しいものの、亨さんは「自分の家」「自分の家族」という感覚を取り戻すことができたそうです。
カウンセラー的に言えば、亨さんの頭の中にあってうまく機能していない「両親との関係性」を変える、というのもありうる選択の一つですが、それよりも、シンプルに亨さんがほっとする家と家族を得られたことが良かったな、と感じたケースでした。