新人の歯科衛生士を教育する仕組みも整っていることが多いです。歯科医院が閉まった後に、スタッフが患者役となって新人の歯科衛生士に歯石を取り除く練習をしてもらうことは、よく見られる光景です。
歯科医療の世界は医療と同じく、技術の研鑽(けんさん)が必要な世界です。
治療法も常に新しいものが出てくるので、それを学んでもらわないといけないわけです。熱心な院長は歯科衛生士や歯科医師にも当然、そうした姿勢を求めますし、当然ながら自らも勉強を怠ることがないのです。
実際、それぞれの歯科医院の雰囲気はうわさ(いいうわさ、悪いうわさを含め)となって歯科衛生士の間に伝わるそうです。このため、院長の考え方や治療方針も伝わりやすく、これを知った歯科衛生士が、「ぜひ、働きたい」と連絡をして、採用されるケースが多いのです。
逆にいうと、「この歯科医院は自分に合わないな」と思ったら、やめてしまう歯科衛生士が多いということです。
現在は歯科衛生士が不足し、売り手市場であるために、短期間でやめてしまうケースは珍しくないようです。ときには、スタッフが一斉に退職してしまい、院長が一人で診療をやらざるをえなくなっていることもあると聞きます。
こうした点から、歯科衛生士の入れ替わりが頻繁でなく、同じスタッフが長く勤務している歯科医院は、院長および歯科医師、歯科衛生士が心を同じくして治療に取り組んでいる、雰囲気のいい施設と考えていいのではないでしょうか。
ちなみに当院の歯科衛生士2人はいずれも開業当初から勤務しているこの道30年のベテランです。どちらも出産、子育てをしながら勤務を続けてきてくれました。
彼女たちには安心して患者さんを任せられますし、私自身、自分の歯のクリーニングをやってもらっています。
最後に――。歯科衛生士の給与は決して高くはありませんが、やりがいのある仕事だと思います。また、介護現場でも歯科衛生士の力が不可欠な時代が来ています。ぜひ、一生の仕事として歯科衛生士として従事してくれるやる気のある人が増えることを願っています。
○若林健史(わかばやし・けんじ) 歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演