今回の非常に微温的な働き方改革でさえ、中小企業には猶予期間(例えば、残業規制は来年4月から適用)を与えざるを得なかったが、もし、来年以降、厳格に残業規制などを適用すれば、多くの中小企業にとって、「地獄の苦しみ」になってくるのは必至だ。人手不足は、合理化投資をできない企業ほど痛めつける。合理化投資をする知恵も余力もなければ、質の低い労働者を毎年上昇する賃金で雇うしかない。自分たちの手取りを減らし、自らの労働時間だけは大幅に増やして、文字通り身を粉にして働いても、残念ながら先は見えない。

 一方、中小企業は、自民党や公明党の大事な支持基盤である。あまり厳しい改革を強いれば、選挙に負けるという恐怖感が先に立つので、やるべきことをそのまま実行することは不可能だ。そこで、どうしても甘い政策に戻りたくなる。出入国管理法を改正し、これまで同様低賃金労働を温存する政策を強化したのは、その表れだし、労働基準法の厳格運用は行われないだろう。

 言葉を換えれば、低生産性温存の政策を引き続き採用し続けるしかないのだ。

 こう見てくると、日本にはもう先がないのではないかという暗澹たる気分になってくる。やるべきことはわかっているのだが、それを今の日本人に実行できますかと聞かれたら、どうしてもNOという答えしか浮かばない。

 私は今、イソップの「アリとキリギリス」という寓話を思い出している。夏の暑いさなか、冬に備えて汗を流しながら食べ物を巣に運ぶアリを見て、周りに食べる草はたくさんあるのにと嘲笑しながら歌に興じるキリギリス。冬になって食べる草が無くなった時、アリの巣を訪ねて食べ物をくれと頼むと、アリに断られる。この話の終わり方には様々なバリエーションがあるが、キリギリスが、冬の寒さと飢えで死んでしまうところに追い詰められるのは共通だ。

 この寓話を用いれば、「昭和はアリの時代」「平成はキリギリスの時代」だと言える。そして、平成の終わりは、晩秋だ。キリギリスの日本を待つのは寒い冬。新元号の時代は、これまでにない厳しい時代になるだろう。

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