これは村上がスガについて書いた章の一文だ。この「誰にも真似できない文体を身につける」という言葉に、スガは強い刺激を受けた。
「僕が全作品を読んだ唯一の作家が村上春樹さんです。その影響は大きい。特に春樹さんのいう自分の文体を持つことはずっと意識し続けています」
では、スガの歌詞の特徴とはなにか――。村上春樹は、散文的、武骨、生理的で触感的な表現が多いとその著書に書いている。
「魅力ある歌詞を書いているシンガーソングライターは、そのほとんどが自分の文体を持っていると思いますよ。椎名林檎ちゃんとか、RADWIMPSの野田洋次郎君とか、クリープハイプの尾崎世界観君とか。明らかに彼らだけの文体がある。そういう自分だけの文体を持つのはすごく難しい。定義や規則がないですから。僕自身、自分の歌詞がどう変わってきたのか、うまく説明できません。ただ自分だけの文体をもつ意識を持ち続けてきたとしか言えません。シンガーソングライターの文体とは、歌詞に書かれている言葉だけではありません。音や、育ちや容姿も含めたキャラクターも合わせたものでもある」
こうしてスガは自分の言葉を磨き、メロディを生んできた。その試行錯誤の成果の1つとして、新作『労働なんかしないで 光合成だけで生きたい』が生まれた。
「4月からアルバムのツアーがスタートします。フィジカルで感じてほしいライヴと、じっくりと聴いてほしいコンサートがあるとしたら、今回は特に歌詞も演奏もしっかり聴いてもらいたい。だから、管楽器を3人加えた編成で、音響のいいホールをまわります。今回のツアーの編成でしかやれない曲も多く歌うと思います」 (神舘和典)