その思いつきが、ありふれた生活を描くという発想になった。そしてできた曲が、恋人と花火の大輪を見る夏を歌った曲「スターマイン」だった。
「前作の呪縛が解かれて『スターマイン』が生まれてからは、その1曲が引き金となるように次々と曲ができていきました」
どの曲も短編小説のような仕上がり。物語があり、景色が見える。特にアルバムのラスト4曲「スターマイン」「黄昏ギター」「マッシュポテト&ハッシュポテト」「深夜、国道沿いにて」は2度と取り戻せない時間や時代が歌われ、胸が苦しくなる。
「ドラマティックな出来事もなく物語をつくることは、初めての試みです。デビューしてから20年、僕はすっと自分の内面と向き合って曲を書いてきました。心の深いところにある醜さや性的な欲求についてです。凌辱するような行為を歌った『イジメテミタイ』やテレフォンセックスを歌った『38分15秒』のような猥褻なテーマの曲を歌っても下品にならないことが僕の持ち味で、リスナーも受け入れてくれていました。今回そういう手法を使うことなく曲を書くのは、必殺技を禁じられた格闘家になったような気分です」
こうして「スターマイン」以降次々と曲をつくっていったスガだが、あと1曲というところまできて最後の苦しみが待っていた。
「早朝に出かける彼女を見送る『am 5:00』という曲が難産でした。ジャズのジョー・パスのようなギターで歌うバラードです。メロディも演奏もシンプルなので、つい歌詞をドラマティックにしたくなります。書き過ぎてしまいます。でも、それはこのアルバムにふさわしくありません。歌詞を書いては捨て、書いては捨て。煮詰まって、深夜、ふだんはクルマで移動する仕事場から自宅まで、毎日10キロの道のりを2時間くらいかけて歩きました。iPhoneのアプリを見て、毎回違う道を選んで、すれ違う人の表情や通りがかりのアパートから出てくる人からイマジネーションを膨らませていったんです」