スガは自分に刺激を加え、負荷をかけ、作品をつくっていく。その意識を象徴する決断がこれまでのキャリアにもあった。2011年にデビュー以来所属していた事務所から独立したことだ。約2年間、どこにも所属せず、自分で自分をプロデュースし、マネジメントし、フリーランスとして活動をした。独立の理由の1つは、作品に濃さを求めたことだった。

「歌詞をダイレクトに伝える音楽をつくりたかったんです。生々しさがほしかった。戦っている主人公の歌は、本当に苦しい場所で危機感をもって歌わないとリスナーに響かないと、ずっと感じていたので。挫折しても前に進もうと歌う2006年の『Progress』や、失敗してもまたトライすればいいと歌う2014年の『アストライド』のような曲は、シンガーが歌詞の内容を本気で感じていないと伝わらないんじゃないかと。だからこそ、苦しいところに自分を置こうと決めました。血を流そうと決めました。僕は必ずしも濃い作品がいいとは思っていません。音楽はさまざまです。リスナーもさまざまです。薄まることで広いリスナー層に受け入れられて、広い世代に聴かれて、上質のポップソングに育つ音楽もたくさんあります。でも、あのときの僕は濃い音楽をやりたかった」

 このように置かれている環境を自ら変えて、スガシカオは自分オリジナルの作品を求めてきた。だから、スガの作品にはスガの生き方が反映されている。キャリアを重ねるごとに、オリジナリティを増し、ほかの誰とも似ていない音楽になっていく。

 スガがシンガーソングライターとして、特に強く個性を意識するようになった背景には、実は作家の村上春樹の存在が少なからず影響している。村上はその著書『意味がなければスイングはない』(文藝春秋)でスガについてエッセイをつづり、2人は交流を続けてきた。

<ほかの誰にも真似のできない「文体」を身につけることができたなら、作家は少なくとも十年くらいは、それでメシが食っていけるかもしれない>

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スガの歌詞の特徴とはなにか