文部科学省によると、2017年には全医学部入学者の20%を占めるまでになっている「地域枠」ですが、一方で、過去11年間で地域枠の定員の1割以上を占める800人以上の学生が、実際には勤務地に制約のない「一般枠」の扱いになっていることが昨年の厚生労働省の調査で判明しました。つまり、「地域枠」の定員が埋まらなかったというわけです。
■制度の“離脱者”は「採用しないように」
厚生労働省は「地域枠」離脱者対策として、病院側に、入学時の取り決めを違反した地域枠卒業の医師を採用しないよう事実上の指示を出しています。これは借金を返済した医師を含めて、です。この結果、地域枠で入学した学生は、借金を返済しても希望する病院で働けなくなってしまうというありさま。さらには、地域枠の医学生が、地域枠から離脱しないようにするにはどうすればいいか、という議論すら行われているのです。
日本国憲法では就業の自由が定められおり、就業場所を強制することはできません。「地域枠」という制度は、10%もの年利付きの奨学金という形でお金を押し付けて多額の借金を背負せることで、勤務先や居住地を選択する自由を奪い、就業場所を強制していると見ることができるのではないでしょうか。
最近お会いした医師会の先生は、「開業医の子弟をいれるための制度だよね」と、はっきり言っていました。「息子や娘が医師として地元に残って働いてくれるのは大変ありがたい制度。それが地域枠の目的の一つなんだろうね」と。
現行の「地域枠」は、医師偏在を解消することに特化されており、若手医師の教育に対して十分に注意が払われていないことが最大の問題だと思います。地域医療が抱える問題は個別具体的であり、医師偏在を解消するための数合わせにしかすぎない「地域枠」では、地域医療に取り組む医師を集める解決にはならないのではないでしょうか。
◯山本佳奈(やまもと・かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー、CLIMアドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)