加えて、当時のスタバにはパンなどの食品の種類が弱かった。イスラエルはコーヒーと周辺の食べ物に相当にうるさい。求めるのは高品質で陶器のカップに入ったコーヒーで、紙ではありません。そしておいしいサイドメニューです。これがないスタバにイスラエルでの商機はなかったのです。
日本の現代社会と文化論を研究しているヘブライ大のヘレナ・グリシュプン博士は、京都に5年住んで日本におけるスタバ現象についての著作もあります。博士によれば、イスラエル人はコーヒーを飲みに来たときに、スタバのようにコーヒーを売るだけでなく、米国式のコーヒー文化を説明されたり、コーヒーの飲み方を教えられたりすることが好きではありません。とにかくモノを食べたり飲んだりするときにごちゃごちゃ言われるのがいやなんです、と説明しています。同じ国の人間として“ガッテン”です。
日本とイスラエルにおけるスタバの差は何を物語るのでしょうか。世界的に成功したグローバル企業はどこでもうまくいくとは限りません。スタバは多くの国で大成功をおさめましたが、イスラエルだけはうまくいきませんでした。グローバル化したとはいえ、地元の流儀にはかなわなかった国がイスラエルという場所なんですね。
○Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年エルサレム・ヘブライ大にて政治学および東アジア地域学を修了。07年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に送られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。12年エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。