私が初来日した1990年代半ばには、喫茶店といえば古いかたちで料金の高いところのイメージでした。滞在したホテルの近くの「純喫茶」と名のついたコーヒーショップでは、ハイライトの紫煙のなか、苦いコーヒー、トースト、スパゲティ、パフェを注文する場所でした。
その数年後、再び来日して驚きました。スターバックス人気に火がついている時期だったのです。96年日本一号店を銀座に出した当初は、都市の真ん中に出店していましたが、瞬く間にスタバは雨後の筍のようにありとあらゆるところに出店していき、2018年には全国約1300店にまで増えています。日本のコーヒー文化を完全に変えましたし、何より日本人はスタバが大好きですね。ちなみにスタバは米国シアトルで誕生して、いまでは世界中に約2万8千店舗を抱える世界最大のコーヒーチェーンです。元会長さんが次の米大統領選に出馬するとかいう話も出ていますね。
イスラエルではどうでしょう。実はスタバはないのです。01年から03年までわずか二年間だけ進出していのですが、イスラエルには根付きませんでした。
他の国ではうまくいったのに、なぜ失敗したのでしょうか。
ひとつの理由はスタバが上陸したときに、すでにエスプレッソ文化が浸透しており、スタバは新しい提案ができなかった。また紙のコップを持って歩くというスタイルよりは、イスラエル、特に第二の都市テルアビブの市民は腰かけて知人たちと政治やビジネスの話をするのが好きなので、持ち歩いてはじっくり議論ができません。
イスラエルにおける最大のコーヒーチェーンは「アロマ」です。スタバ進出より前からたいへんな人気です。写真は一番人気のコーヒー。表面にはカフェラテの泡にホイップクリーム。底にはチョコレートが沈んでいます。冷たくて甘い→温かい→甘いという3層構造の味が何ともいえません。
スタバの味にも問題がありました。イスラエルでは、エスプレッソやマキアートのようなイタリアンコーヒーをどこでも注文できます。トルココーヒーのような濃厚さとも相まって強い味と風味を共存させていますが、アメリカンテイストのスタバにはできなかったのです。