その時に気を付けてほしいのが、喃語(なんご)、いわゆる赤ちゃん言葉を使わないことです。

 子どもは、親の言葉を聞いて真似して発音しているのですが、口の動きが未熟なせいで同じようにできません。それが、「でんちゃ(電車)」「ジューチュ(ジュース)」といった赤ちゃん言葉になるのです。

 子どもとしては、電車、ジュースと発音しているつもりなのに、大人のほうが「でんちゃが来たね」「ジューチュ飲もうね」などと言ったら、同じ言葉に関して、二通りの表現があると混乱してしまいます。

 子どもには、分かりやすく正しい言葉をゆっくりかけてあげるのが大事です。

 そして、まだ言葉を発しない赤ちゃんには、意識的に声をかけてあげる必要があります。

 まず、母親の声はお腹の中で10カ月間聞いてきたので、話しかけられると安心します。クラシックを聞かせるより、ずっと効果的です。

 さらに、「おむつを替えて気持ち良くなったねぇ」「ミルクを飲んでお腹いっぱいだね」といった語り掛けによって、赤ちゃんは、今の自分の状況が「気持ちいい」「お腹いっぱい」なんだと覚えていきます。

 語り掛けは一方通行に見えますが、実は、話しかけられたことがきちんと記憶、蓄積されているのです。

「雌伏(しふく)期間」という言葉をご存知でしょうか。これは、実力を養いながら活躍のチャンスを待つという意味で使われていますが、もともとは、鳥が卵を抱いている期間という意味の語です。

 鳥が卵を抱いて温めている時、外からは卵に何の変化も見えません。しかし、卵の中では、どろどろの状態がひなの形になるため、爆発的な変化が起きているのです。そして、時期が来るとひなが内側からコンコンと殻をつつき、母親が手助けして中から出てきます。

 これは、話し始めの子どもと似ています。それまで意味をなさない声を出していただけなのに、ある日、一つ言葉が言えるようになると、次々に言葉が湧くように出てくるのです。

 ですから、赤ちゃん時代には、シャワーのようにたくさんの言葉をかけてやり、片言が話せるようになったら、オウム返しで話すことの自信をつけさせ、もっと話せるようになったら、「話すことが楽しい」と思えるように、熱心に子どもの話に耳を傾けてください。誰でも簡単にでき、なおかつ非常に効果的な方法です。(取材・構成/松島恵利子)