立教大学構内で。卒業後も就職は考えなかった。ずっと劇団を続けていける、という創作への自信が根底にあった(写真=植田真紗美)
立教大学構内で。卒業後も就職は考えなかった。ずっと劇団を続けていける、という創作への自信が根底にあった(写真=植田真紗美)

 劇団「贅沢貧乏」主宰・作家・演出家・俳優、山田由梨。幼い頃から「演じる」ことがそばにあった。将来は俳優になりたい。けれどもその道は、常に「選ばれる」ことだと気づいた。もっと自分で選んだ人生を送りたい。その思いから、劇団「贅沢貧乏」を立ち上げ、脚本、演出、俳優と自らこなすようになる。フェミニズムを知ったことも、自分の足で歩くことを選ばせた。山田の創作は今、世界でも注目されている。

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「フランス人は好き嫌いがはっきりしているので、途中で帰る人がいるけれど気にしないでね」

 パリ日本文化会館の舞台芸術アドバイザーの副島綾は、パリ公演を迎える劇団「贅沢(ぜいたく)貧乏」のメンバーたちに、そう話したという。毎年、秋のパリで開催される世界有数の舞台芸術祭「フェスティバル・ドートンヌ」。劇作家・山田由梨(やまだゆり)(31)が主宰する「贅沢貧乏」による「わかろうとはおもっているけど」は、日本人女性によるフェミニズムの作品として前評判が高かった。それでも、観客が途中で席を立つのはフランスではよくある話だ。ところが蓋(ふた)を開けてみれば、「贅沢貧乏」のパリ招聘(しょうへい)に2年前から尽くしてきた副島自身が驚いた。全5公演全て、大ホールを埋め尽くした観客誰一人として席を立たなかったのだ。かなり珍しいことだった。それどころか、終演後も興奮冷めやらぬ観客が、劇場の前にいくつものグループをつくり感想を話し合う姿もあった。

「わかろうとはおもっているけど」は、妊娠をめぐる対話で構成される。予期しない妊娠に揺れる女性と、妊娠を喜べない女性に戸惑う男性、他に主人公の内面を表象する3人の女性が、性と生殖をめぐるぬきさしならぬ女のリアリティーを、テンポよく言葉にしていく。

「(妊娠したのが彼だったら)わたし嬉しいって思えたかもしれない。もしそうなら全力でサポートする、私の子供産んでくれるの?って思って」「あのね、女がみんなで産まないって決めたら、人類は滅びるからね」「産みたくなかったら産まないから。だからもっと自信持ってこうよ、私たち」

 女のなかに存在する分裂した「私たち」が、妊娠をきっかけに語り出す。何故女だけがこんな思いを背負うの? 男が妊娠したらどうなるの? パートナー間でもレイプはおきる? クライマックスに向かい強い感情がぶつかり、ステージでは突如、男女がミラーリングされる世界が展開する。男女を入れ替えることで、ジェンダーの構造的差別が浮き彫りにされるフェミニズム的手法だ。妊娠する男と、妊娠を喜ばない男に戸惑う女の登場にステージ上の緊張は一気に加速する。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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