政令指定都市の中学校の50代校長は危機感を募らせる。

教育委員会から『タブレットを持って帰らせるように』と通知がきた。ネット依存の原因になることを恐れて、『せめて、深夜から未明までは使わないように、時間制限を』と言ったが、『自由に使わせる』となってしまった。委員会でネットを使っている時間を調べたら、1カ月に200ギガオーバーという子が何人もいた。一日中タブレットに向かっているのだろう。学校が配布したタブレットがネット依存の温床となっている」

 ネット依存は、心身が不健康な状態になり、成績不振や不登校にもつながる社会的な問題でもある。教育の目的で配布した道具が、ネット依存の要因になってしまうのは本末転倒だ。

■文房具の一つと考えて

 ただし、GIGAスクール構想はまだ始まったばかり。どうすればうまく学びに取り入れられるのか。

 教員向けの著書も多い、兵庫県の公立小学校の俵原正仁(たわらはらまさひと)校長は「タブレットを特別視することはない」と言う。

「どんな授業をするか考えて、タブレットの活用が有効となれば、使えばいいのです。文房具の一つと考えればいいのでは。ICTは、目的ではなく授業を成功させるための手段です。たとえば、私の学校では朝顔の観察にタブレットを使っています。朝顔の鉢の前で、不安定な体勢で絵を描くより、撮影して教室に戻り、じっくり観察して描くほうがいいでしょう? 簡単に導入できるICT教育は、たくさんあります」

 運用や学習面での課題について文科省や教育委員会は現場に丸投げするのではなく、教員の声も聞き、子どもたちのために問題を改善していく必要がある。教育のせいで困るのは、未来を生きる子どもたちなのだから。(教育ライター・高清水美音子)

AERA 2023年1月16日号