ITに詳しい若手の教員ならうまくできるのでは、とよく言われるが、それは幻想だという。

「授業の力量を上げずに、ただICTを使えばいいわけではない。若い教師はICTのことばかり考えて停滞している。ベテランも授業の基本となる一斉授業の力を育てる時間がない」

 と、東京都の公立中学校教諭(50代)は憤る。

 もちろん、メリットを指摘する声もあった。茨城県内の公立小で特別支援学級の担任をする50代の男性教員は言う。

「(タブレット端末で)デイジー教科書(紙の教科書では読むことなどが困難な児童生徒が利用できるマルチメディア教科書)が使えるようになって、子どもたちが音読をできるようになった。文章を読み上げる機能があるので、聞きながら読む練習ができる」

■自作エクセルで筆算を

 算数では、自作のエクセルワークシートを使って、筆算の練習を子どもたちが自力でできるようになったという。

「途中経過が見えるようにしたので、どこで間違ったかわかる。直しも効率的にできます」

 意欲的にICTを活用し、授業の質を上げている例だ。

 GIGAスクール構想には課題も多いが、ICT教育だけをやり玉に挙げる教員はほとんどいない。準備の時間や研修がないこと、授業から修理対応まで学校に丸投げで、結果、教員の仕事が増えること。子どもへの悪影響を放置していること。現場は、増え続ける仕事量に疲弊しているのだ。

 文科省の担当者はこの状況についてこう話す。

「文部科学省からは、1人1台端末を『このくらいの時間を取って使用してほしい』という具体的なお願いはしておりません。一方で、『個別最適な学び』と『協働的な学び』の一体的な充実など、教育の質を向上させるためGIGAスクール構想を推進しているところであり、その観点で1人1台端末を日常的・効果的に活用いただきたいと考えています」

 時間こそ指定していないが、結局、日常的に活用するよう、物腰柔らかく言われているだけのように聞こえる。だから、次の事例のように「手柄を立てよう」と、暴走する教育委員会が出てくるのかもしれない。

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