家族であっても、相手の心の奥底まで知ることはできるのか。むしろ全部理解しようとすることのほうがおこがましいのではないか。結婚することや別れることよりも、関係を続けることが一番難しいと思っている私は、そんな想いを抱きました。

 私のライフワークのひとつに被災地での絵本の読み聞かせがあります。2011年の東日本大震災以降に始め、16年の地震の後も避難所や病院を回りました。よく読むのは『ぼく、お月さまとはなしたよ』。クマの男の子が山々にこだましている自分の声をお月さまの言葉だと信じて、対話を重ねるストーリーです。やまびこですから、自分の発した言葉が返ってくるだけなのですが、最後はほっこりと幸せな気持ちになります。つまり、クマくんは自分の言葉で自分を幸せにしたわけです。大人にも響く絵本だと思います。

『ぼく、お月さまとはなしたよ』フランク・アッシュ/評論社
『ぼく、お月さまとはなしたよ』フランク・アッシュ/評論社

 絵本の読み聞かせをしていて、気づいたことがあります。それは、涙を流すのは、いつも子どもと一緒に聴いてくださる大人たちだということです。

 私は、面白おかしく読むので、会場は子どもたちの笑い声に包まれます。でも、そこにいる保護者や先生、医療従事者らは泣いている。読み聞かせの声を聴きながら、目の前の現実を一瞬忘れ、ふっと力が抜けた時に涙が出るのでしょう。大人は、自分の心のケアは自分でするしかありません。読み聞かせがその手助けになっていることを実感しています。

 本を読むこと、読み聞かせてもらうこと。いずれも、自分の疲れを癒やし、足りないものを補ってくれるサプリメントのようなものだと思います。忙しく、時間もエネルギーもない時こそ、心の処方箋として本をそばに置いておきたいですね。

(構成/編集部・古田真梨子)

■心の処方箋として

疲れた時にエネルギー注入!
『自分の中に毒を持て』/岡本太郎/青春文庫

最後はほっこり大人にも響く絵本
『ぼく、お月さまとはなしたよ』/フランク・アッシュ/評論社

『自分の中に孤独を抱け』/岡本太郎/青春文庫

『千年後の百人一首』/清川あさみ、最果タヒ/リトルモア

『100万回の言い訳』/唯川恵/新潮文庫

AERA 2022年11月14日号

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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