土井さんは即興を楽しむ。

料理するにしても、きのうの自分に頼らずに、いつも新しい自分を見たい。きょうの新しい自分が初めての料理を作るという感覚があるんです。自由に作れるのが楽しみなんですよ」

 いつもは進行がきっちり決まっているNHK「きょうの料理」では、リハーサルなしのぶっつけ本番でおむすびの収録をしたこともあった。

『一汁一菜でよいという提案』が話題になった後、

「一汁一菜はもうええわ、私は次に行きたい、と思ってたんですけど、どこまで行っても一汁一菜に戻ってきてしまうんですね。とにかく原点はここにある。この土台なくして料理の話はできない。それがよくよくわかりました」

 料理人にとって店で客に出す献立を毎月考えるのは大きな悩みだという。家庭人はそれを毎日やっているわけだ。

「考えなくてもパッとできて自分のノルマを達成できるのが自然とつながる一汁一菜です。日本の豊かな風土の中に育つ、旬の植物と魚を入れといたら、おいしさも健康も、みんなうまくいくんですよ」

(ライター・仲宇佐ゆり)

AERA 2022年6月6日号