■“新しい接客”を考える

 100BLGでは、認知症の人たちが地域や社会から切り離されることなく、役割を持って生きていけるようにする拠点づくりを進めてきた。自動車販売店での洗車や、ポスティングなど「はたらくデイサービス」が特徴で、その日何をするか、昼ごはんを食べに行くか買いに行くかといったことも、自分で選んで自分で決める。

 研修で前田さんが活動について説明すると、当事者からは「(ポスティングの仕事は)いろんなところに行けるから刺激になる」といった声が上がった。

 100BLG取締役の平田知弘さんによると、障害を持つ人たちが“経験の専門家”として助言などを行う取り組みが広がりつつあるという。

 何に困り、どうしたら解決できるのか。それを誰よりも知っているのは当事者たちに他ならないからだ。

「空港のユニバーサルデザインに認知症の当事者が参加して提言する、といった事例もあります」(平田さん)

 新入職員が本格的に働き出すと、実際に認知症のお客さんと接する機会も出てくる。暗証番号を忘れる、通帳や印鑑を紛失する、ATMの操作が難しい──。BLG八王子の守谷卓也代表が語りかけた。

「認知症があると課題も出てくるが、店の視点で“困ったお客様”と捉えるのではなく“本当に困っているのは誰なんだろう”と当事者の視点に立って考えてほしい。困っているのは認知症とともに生きる当事者その人のはずです」

「認知症といっても一人ひとり違うということが実感できた。仕事だけでなく人生の中で貴重な時間になった」「半年後、1年後に実際に窓口に立ったとき、自分に何ができるのか。自分の中で“新しい接客”について考えていきたい」と新入職員たち。地域の一員として働く意欲がわき上がってきたようだ。(編集部・高橋有紀)

AERA 2022年5月30日号