王位戦第1局を終え、感想戦を行う藤井聡太王位(手前右)と豊島将之竜王(同左)。日本将棋連盟提供
王位戦第1局を終え、感想戦を行う藤井聡太王位(手前右)と豊島将之竜王(同左)。日本将棋連盟提供
藤井聡太王位が1日目の午後のおやつに注文したヒヨコ形バニラアイスクリームの「ぴよりん」。ネット上などで話題になった(c)朝日新聞社
藤井聡太王位が1日目の午後のおやつに注文したヒヨコ形バニラアイスクリームの「ぴよりん」。ネット上などで話題になった(c)朝日新聞社

 藤井聡太王位と豊島将之竜王が対決する王位戦七番勝負が開幕し、第1局で藤井王位が完敗した。豊島竜王との通算成績は1勝7敗で藤井王位が苦手としていると見る向きもある。しかし実績をみてみると、将棋界のトップ3は三すくみ状態だ。AERA 2021年7月12日号の記事を紹介する。

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 将棋では「一手指したほうがよく見える」という表現がある。技量伯仲の上級者同士が熱戦を演じると、一手ごと、互いによく見える状況が生まれる。

 現在の将棋界は「1勝したほうがよく見える」状況かもしれない。豊島が1勝した直後の現在。「やっぱりまだ藤井にとって豊島は高く厚い壁なのだろう」というムードが生まれる。

 王位戦が始まる直前、藤井は叡王戦の挑戦権を獲得した。叡王は豊島である。王位戦七番勝負と叡王戦五番勝負は、両者が立場を入れ替え並行して進んでいく「相掛かり」の形になった。

■三すくみのトップ3人

 現在の将棋界で複数タイトルを持つトップ3人、渡辺明三冠、豊島二冠、藤井二冠は三すくみの関係にある。渡辺は豊島に21勝14敗で勝ち越している。豊島は藤井を7勝1敗で圧倒。そして藤井は渡辺に8勝1敗だ。

 トップクラス同士の対戦でもっとも有名な星の偏りは、中原誠十六世名人(73)と加藤一二三九段(81)だ。両者は1970年代から80年代にかけて、名人戦などの大舞台で多くの名勝負を繰り広げた。最初のうちは8歳年下の中原が21勝1敗と圧倒していた。しかし、途中からは拮抗し、最終的には中原67勝、加藤41勝という成績が残されている。

 中原-加藤のように、現在のトップクラスの関係も長い時間が経ってみれば、いずれ落ち着くところに落ち着く。あとで振り返ってみれば、最初の頃、1戦ごとにあれこれ言っていたのは何だったのか、となるだろう。しかし、一手ごとに一喜一憂し、リアルタイムであれこれ言えるのは、同時代に生きる観戦者の特権である。棋聖戦、王位戦、叡王戦。そしてこれから続くタイトル戦。1戦進んで終わるたび、将棋界の景色は違って見えてくるだろう。(ライター・松本博文)

AERA 2021年7月12日号に加筆

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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