権力闘争、暗殺…そして感染症「不幸は一つでは済まない」フランス文人医師の言葉の意味 (1/2) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

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権力闘争、暗殺…そして感染症「不幸は一つでは済まない」フランス文人医師の言葉の意味

連載「歴史上の人物を診る」

早川智AERA#AERAオンライン限定#歴史
フランソワ・ラブレー像(gettyimages)

フランソワ・ラブレー像(gettyimages)

 ステイホームの連休は、家にこもって楽器の練習をしていた。音楽仲間の医者や学生たちとのアンサンブルもできないので、いきおい独奏曲となる。筆者の愛好するリュートには6コース11弦のルネサンスリュートから、13コース24弦のバロックリュートまで様々なタイプがあるが、気晴らしに弾いてストレスが少ないのは16世紀前半のルネサンスものである。パリで出版されたこれら16世紀半ばのリュート曲集は、音楽的には素人の貴族や上級市民が対象だったためか弾きやすく旋律も親しみやすい。

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 しかし、この時代のフランスはイタリア半島を舞台にしたスペインハプスブルク家との戦争、新教徒と旧教徒の宗教戦争、14世紀から繰り返すペストの流行、そして15世紀末に新大陸から渡来した新興感染症である梅毒で悲惨な毎日であった。

■「不幸は一つで済まない」

 この時代に生きた医師、文人にフランソワ・ラブレー(1483―1553年)という人物がいる。

 医師としては、医学史に残るような仕事はしていないが、文学者としては中世の巨人伝説をもとにした騎士道物語のパロディ『ガルガンチュワ』と『パンタグリュエル』が知られている。鯨飲大食の巨人親子と、糞尿譚、ギリシアローマの古典の本歌取り、教会や王侯貴族、大学の権威者に対する皮肉からなるこの著作は、広く庶民の人気を博したがあまりに過激な内容のため禁書とされた。江戸時代に偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)で発禁になった柳亭種彦や洒落本で手鎖の処分を受けた山東京伝を思わせるキャラクターである。

 一方、本業ではヒポクラテス、ガレノスら古代医学者の著書を多く研究したラブレーは、ラテン語やフランス語でいくつかの箴言を残している。その一つが、

「Un malheur ne vient jamais seul.(不幸は一つで済まない)」

 である。王侯貴族の間の権力闘争、暗殺、宗教戦争など血なまぐさいフランスで、社会的混乱に加えて、さらに感染症による犠牲者が増えたことは想像に難くない。

■災害と感染症

 歴史に残る最も古い自然災害と疫病の同時発生は、西暦535年から536年の地球寒冷化である。おそらくはインドネシアのクラカトウ火山の噴火により、地球の平均気温が2度下がったとされているが、同時にペストの最初のパンデミックが起きた。いわゆるユステイニアヌスのペストである。


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