推しを持ち推し活をする人はまったく珍しくなくなった。心の中の推しは、小さな神さまのように、自分自身を優しくしてくれる(撮影/写真部・高野楓菜)
推しを持ち推し活をする人はまったく珍しくなくなった。心の中の推しは、小さな神さまのように、自分自身を優しくしてくれる(撮影/写真部・高野楓菜)

 いまや、応援する「推し」がいるのは決して特殊なことではない。推しから幸せをもらい、推しの幸せを願う。推しがいるから人に優しくなれる。2021年3月22日号から。

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 3月上旬の週末、東京・原宿の竹下通りにあるステージには、10代後半から40代まで、50人以上の女性が詰めかけた。男性地下アイドルグループに会うためだ。新型コロナウイルス対策で、観客は着席しフェイスシールドとマスクを着用しなければならず、声援も送れない。それでも、好きなメンバーカラーのペンライトを振って応援した。

 東京都内の看護師の女性(25)は、友人に誘われて行ったライブで「初めましてだよね」とあるメンバーに声をかけられ、感激して通うようになった。

「コロナで仕事が大変になったのですが、『推し』に会ったら仕事を頑張ろうと思える。夜勤明けでも来ちゃいます」(女性)

 女性が話す「推し」とは、応援するお気に入りのメンバーのこと。推しにかける思いは熱い。

「推しに私は幸せをもらっている。だから、推しにも幸せになってほしい。職場の後輩にも『布教』しています。もっといろんな人に知ってもらいたい」

■「推したい」瞬間山ほど

 かつて一般人が応援する対象といえばアイドルで、1970年代の親衛隊を始め、一部熱狂的なファンによる、というイメージが強かった。

 だが、いま、この女性のように応援する「推し」を持つ人は決して特殊ではない。ツイッターでは秒単位で「推し」という言葉がつぶやかれている。昨年、NHKの「あさイチ」が「あなたの“推し”を教えて!」とアンケートを実施したところ、番組史上最多の4万4千件以上のコメントが届けられた。

「推す」対象はアイドルだけでなく、俳優やアニメキャラなど多岐にわたる。推しについて考えたり、情報収集や応援したりすることを「推し活」という。

「声優の推しが複数いる」というのは、都内のPR会社に勤める鈴木亜美さん(23)。アニメ「鬼滅の刃」の主人公、竈門炭治郎(かまどたんじろう)役の花江夏樹さんもその一人だ。

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