AERA 2021年3月15日号より
AERA 2021年3月15日号より
AERA 2021年3月15日号より
AERA 2021年3月15日号より

 近年、教員採用試験の倍率が低下している。1980年ごろ大量採用されたベテランが退職期を迎えていることも影響しているようで、地域によっては2倍を割り込むところも。となれば教員の質が問われがちだが、問題はむしろ「熱量」の質にある。AERA 2021年3月15日号の記事を紹介する。

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 かつて、小学校の教員のなり手は旧師範学校を引き継いだ国立大の卒業生などが中心だったが、大量退職・大量採用時代を迎え、05年にあった政府の規制緩和で他の多くの私大でも養成するようになった。近年では、国立大教育学部も含めて、これらの大学の入学時点での競争率が低い状態も続いており、「教員の質」についてはしばしば議論になっている。

■「教員の質」議論に疑問

 長崎県の小学校で3年生を担任する山坂幸三さん(56)は、自身が採用された時代は「いろんな人」が学校現場に入ってきたという。採用が多い今の時代とも通じる時期だ。

「その後、倍率が高い時代に採用された教員は、やっぱり頭は良かったですよ。ただ、教員の質という意味では正直、よく分かりません」

 筑紫女学園大学の石原努教授も、こうした「質」の議論に疑問を感じるという。

「倍率が高いときに1次試験でたくさん点をとった人が実際に教員に向いているかどうかは別の問題です。簡単に言えば、子どもが好きで理解してあげようという気持ちを持ち、子どもの実態に応じた指導ができなければダメなので、点数が高くても自分の経験をもとにした価値観だけを押しつけるような人は質が高いとは言えません」

 データ抜きに「教員の質」というあいまいな概念で議論をしたとしても、たいした収穫が期待できない可能性がありそうだ。教育研究家の妹尾昌俊さんは、議論を進めるなら05年の規制緩和のあり方を含めてこれまでの教育政策の全般を評価するべきで、個人の「質」だけを問うのは疑問だ、と述べる。

 むしろ、低倍率以上に問題だと妹尾さんが指摘するのは、教員にぜひなって欲しいと思うような人材が、教員を目指さないという状況になっている可能性の方だという。

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