篠田玲さん(45)一家。左から夫(42)、長男の唯君(5)、玲さん、長女(3)の4人家族。「夫は一緒に子を育てる同志です」と玲さん(写真:篠田さん提供)
篠田玲さん(45)一家。左から夫(42)、長男の唯君(5)、玲さん、長女(3)の4人家族。「夫は一緒に子を育てる同志です」と玲さん(写真:篠田さん提供)
女性(38)の夫(41)と手をつないで通学する小学校2年の娘(8、写真中央)。女性は精神的につらかった時、「一緒にいる時間が増えてラッキー」という気持ちでやってきた(写真:本人提供)
女性(38)の夫(41)と手をつないで通学する小学校2年の娘(8、写真中央)。女性は精神的につらかった時、「一緒にいる時間が増えてラッキー」という気持ちでやってきた(写真:本人提供)

 コロナ禍で、発達障害のある子どもと親が、心身共に追い詰められてしまうことがある。発達障害のある子どもに親はどう向き合えばいいか。大切なのは何か。AERA 2021年2月1日号で掲載された記事から。

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 涙は突然、あふれてきた。

「いっぱいいっぱいだったんだと思います」

 都内の会社で働く篠田玲(れい)さん(45)は当時をそう振り返る。

 それは、昨年4月下旬、緊急事態宣言から2週間ほど経ってからのことだった。

 保育園に通う唯(ゆい)君(5)は、発達障害の特性の一つ、人の気持ちを読み取るのが苦手な「自閉スペクトラム(ASD)」と「知的障害」とがある。全国に緊急事態宣言が出た4月16日とほぼ時を同じくして、唯君が通う保育園は休園となり、篠田さんはテレワークになった。

 夫(42)は一緒に子育てをする「同志」だが、日中は会社に行っていないため、どうしても昼間は篠田さんが家で唯君と長女(3)の3人で過ごすようになった。しかし、パソコンで仕事をしていると子どもたちが邪魔をしに来る。話しかけてきたり、パソコンに触ったり。注意してもやめないのでイライラすることが増え、カッとなり「うるさい」と怒鳴ったり、「やめてよ」と手を叩いたりした。その都度、自己嫌悪に陥った。

■心身の不調が増えた

 結局、昼間は仕事ができなくなり、夜中から明け方にかけ仕事をするようになると睡眠時間は3、4時間になった。

 夕ご飯を食べたあと台所に立ち、やっと一人で洗い物ができると思ったら、子どもが走ってきた。そのときだ。突然、うわーっと涙があふれ出たという。

「これはよくない」と考え、会社に緊急事態宣言の間は休ませてほしいと伝え、5月いっぱい仕事を休んだ。子どもにだけ向き合えるようになると、精神状態は落ち着き、子どもと普通に向き合えるようになってきた。篠田さんは言う。

「本当に気持ちの浮き沈みが激しくて。いま思うと、息子も外に行きたがっていたのでストレスを感じていたと思います。私も息子も、追い込まれていたのだと思います」

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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