「人の良さと“おじさん感”がにじみ出ている中、時に聞き役をズバッと切ったりいじり倒したり。絶妙です」(松本さん)

 ネットで付いたあだ名は「将棋の強いおじさん」。「千駄ケ谷の受け師」「百折不撓(ひゃくせつふとう)の棋士」と評される指し姿からは想像もつかない語りが楽しめる。

 きわどいやり取りで評判なのが福崎文吾九段だ。「東の木村、西の福崎」と称される解説界の横綱。立会人を務めた6月の名人戦で中継に出演した際は、封じ手の紙を「メルカリで売ろうかな、と」と爆笑をさらった。

「関西人らしくしゃべりが抜群にうまいうえに、きわどいブラックジョークを真顔で次々に投下する。名人芸です」(同)

■持ち味はパワーワード

「名人」たちを脅かす若手の筆頭が藤森哲也五段。「技をかけにいきましたね」「どこで脱ぐかが勝負」「パワープレス」「またひねっちゃうの?」などそれだけ聞くと将棋とは思えない実況調が話題だ。競馬、麻雀、野球用語、果てはドラゴンクエストに出てくる呪文まで用いた解説で視聴者を喜ばせる。

「彼が解説するのは自分より格上の棋士の対局が多い。対局者をリスペクトしつつ持ち味を出してパワーワードを盛り込んでくる。頭の回転が速い、新時代の解説名人候補です」(同)

 当然ながら対局は一手一手が真剣勝負。解説の棋士たちも普段は勝負師だ。本気の対決を真摯に読み取る解説のなかに織り交ぜられる軽妙なやり取りには、棋士同士の敬意と真剣勝負を気楽に楽しんでほしいというファンへの心遣いがあふれている。(編集部・川口穣)

AERA 2020年9月14日号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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