自虐と中年の哀愁あふれる解説で人気の「将棋の強いおじさん」こと木村一基九段 (c)朝日新聞社
自虐と中年の哀愁あふれる解説で人気の「将棋の強いおじさん」こと木村一基九段 (c)朝日新聞社
新時代の解説名人と言われる若手の代表格、藤森哲也五段は実況系の解説が特徴 (c)朝日新聞社
新時代の解説名人と言われる若手の代表格、藤森哲也五段は実況系の解説が特徴 (c)朝日新聞社
「同飛車大学」でも注目された将棋界のダジャレ王、豊川孝弘七段 (c)朝日新聞社
「同飛車大学」でも注目された将棋界のダジャレ王、豊川孝弘七段 (c)朝日新聞社

 人気急上昇の将棋界で、対局と同様にファンを魅了している「棋士の解説」。その頭脳を駆使し、ユーモア溢れる軽快な話術で将棋の魅力を伝えてくれる。AERA 2020年9月14日号では、将棋中継を盛り上げる「注目の将棋解説者たち」をレポートした。

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 藤井聡太二冠の活躍でかつて無いほどの注目を集める将棋界。藤井棋聖が木村一基王位を破って最年少二冠となった8月19~20日の王位戦第4局はAbemaTVで生中継され、初日は延べ290万人、2日目は550万人が視聴した。タイトル戦以外でも、Abemaの視聴者数ランキングで将棋番組は連日上位に食い込む。

 将棋中継では対局の映像とともに、大型の将棋盤を使ったプロ棋士の解説が大きな比率を占める。元々は熱心な将棋ファンにもわかりづらいプロの指し手の狙いを読み解くためのものだった将棋解説が今、初心者でも気軽に楽しめるエンターテインメントとして見直されている。

■ダジャレで自虐で爆笑

 エンタメ系解説者の代表格が、「将棋界のダジャレ王」の異名を取る豊川孝弘七段だ。8月20日の王位戦では、ツイッターで豊川七段考案の「同飛車大学」という言葉がトレンドになった。相手が直前に指したのと同じマスに自分の飛車を動かす「同飛車」と同志社大学をかけたダジャレだ。将棋ライターの松本博文さんは言う。

「豊川七段は解説に立つと流れるようにギャグを繰り出します。ほかにも『両取りヘップバーン』『難解ホークス』など傑作も多い。切り取るとくだらないダジャレですが、豊川七段の間合いで聞くと笑ってしまう。将棋に詳しくなくても見る価値ありです」

 王位戦第4局で20分ほど出演した際も、数十秒に1度のハイペースでギャグを繰り出して貫禄を見せつけた。

 解説者として「名人」の呼び声が高いのが、王位戦で藤井二冠に敗れた木村九段だ。難解な局面を瞬時に読み解いて将棋マニアをうならせる一方、「おじさん」を自称し、軽妙で自虐的な語りも見せる。自身への挑戦者を決める王位リーグの羽生善治対藤井戦の解説では「みんな負けて(挑戦者が)来なければ平和に暮らせるんですよ。『みんな負けて』という気持ちです」と本音をぶちまけ、聞き役の女流棋士を爆笑させた。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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