しかし、感染症に詳しい内科医の久住英二医師はこの案を真っ向から否定する。まれな副反応を見逃すおそれがあるほか、中途半端な抗体が重症化を招く危険があるというのだ。

「いくつかのワクチン開発で確認された抗体依存性感染増強という現象です。ウイルスから体を守るはずの抗体が逆に免疫細胞へのウイルス感染を促進し、免疫系が暴走してしまうのです。第3段階を省略して実用化などあり得ません」

 ただ、第3段階のために海外勢と組むのも容易ではない。

「日本企業は1980年代からほとんど自前のワクチンをつくっておらず、技術もスケールも完全に遅れています。国内分のワクチンを確保するには海外メーカーへの投資と速やかな交渉が重要でしょう」(久住医師)

 かつてないスピードで進むワクチン開発。久住医師は言う。

「一度免疫がつけば再感染しても重症化しづらいと考えられます。ワクチンを広く接種できるようになれば、新型コロナウイルスは恐れる病気ではなくなります」

(編集部・川口穣)

AERA 2020年6月29日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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