写真はイメージ(C)朝日新聞社
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AERA 2020年6月29日号より
AERA 2020年6月29日号より

 東京2020実現のカギを握るワクチン開発が、かつてないスピードで進んでいる。日本勢も健闘するが、開発の9割は失敗に終わるとされ、楽観はできない。AERA 2020年6月29日号は、実用化の「壁」に迫る。

【世界各国でのワクチンの「開発状況」はこちら】

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 ワクチン開発は動物などでの非臨床試験後、人間への臨床試験へ進む。第1段階では数十人程度の健常者に接種して安全性を簡単に確認する。安全性が認められれば数百人の健常者で、抗体産生や年齢による違い、投与法などを検討する第2段階、数千人以上の大集団に接種し、まれな副反応も含めた安全性確認と免疫の有効性を調べる第3段階に進む。実は、ワクチン候補の9割は実用化できず失敗に終わると言われる。特に、第2段階以降はハードルが格段に高い。インペリアル・カレッジ・ロンドンの小野昌弘准教授(免疫学)は言う。

「動物実験だけでは人間の反応は予測しきれません。また、抗体が体内でどの程度つくられているかは血液検査で調べられますが、抗体ができることが本当に感染を防ぐことにつながるかも検証が必要です」

 難しいのは、流行が抑えられるほど、ワクチンの感染予防効果の検証に時間がかかる点だ。

「新規の感染者が少ないと、第3段階で有効性の十分な検証ができません。抗体の誘導と安全性確認だけで承認される可能性が高いですが、この場合、感染予防の効果は承認後も観察が続きます」(小野准教授)

 承認済みワクチンが有効と言い切れない事態もあり得るのだ。

 米英中のうち国内が有効性確認に適した流行状況にあるのは米だけで、中国企業はブラジルやカナダでの臨床試験を目指している。オックスフォード大も英での試験と並行して米とブラジルでの実施を予定するが、5月下旬には開発責任者が英紙で「結果が出ない可能性が50%ある」と弱気な発言をした。

 日本で第2段階をクリアするワクチンが現れた場合も、有効性確認が大きな課題だ。関係者からは体内での抗体生成が確認されれば第3段階を省略して実用化するべきだとの声まで聞かれる。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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