榛沢医師(写真右)は被災地での診察もしている。熊本地震の際には、避難者の女性の足から血栓を見つけた/2016年4月、熊本県益城町 (c)朝日新聞社
榛沢医師(写真右)は被災地での診察もしている。熊本地震の際には、避難者の女性の足から血栓を見つけた/2016年4月、熊本県益城町 (c)朝日新聞社

 新型コロナウイルスの重症化の要因の一つに血栓があることがわかってきた。血栓は肺塞栓症や脳梗塞など命にかかわる病気につながる。コロナ禍で定着したリモートワークによる運動不足も指摘され、私たちはいま、二重の意味で血栓リスクにさらされている。カギを握るのは血流対策だ。AERA 2020年6月15日号から。

【イラスト】新型コロナで血栓ができるメカニズムはこちら!

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 今、身近にも血栓の危険は迫っている。コロナの「第2波」が懸念される中、テレワーク(在宅勤務)を続ける人や自宅にいる時間が長いという人も多い。新潟大学大学院特任教授の榛沢(はんざわ)和彦さん(心臓血管外科)は、そうした人に血栓症のリスクがあると警鐘を鳴らす。

「自宅にこもって仕事を続ける生活は、災害時の避難所生活と同じです。テレワークは家の中でじっとし、特に椅子の上でじっとしていることが多い。椅子に座った状態で長くいると、足に血栓ができやすくなります」

 災害時の避難所などでこの問題に取り組んできた榛沢さんによれば、東日本大震災後の避難所では平均10%、最もひどい避難所では42.1%の被災者に血栓が見つかった。

「トイレが十分に整備されていない、水や食料など支援物資が届かず十分な食事がとれないなど、避難所の環境がよくないところは血栓が多くみられました」

 血栓の有無は被災者のふくらはぎの静脈を超音波で調べることでわかる。東日本大震災の避難所では40代、50代の女性に血栓が多く見られた。女性はトイレに行くのを我慢して水分摂取を控える傾向があるため、脱水傾向になっているのだろうという。一方、高齢者の血栓発症率は、災害時でも変わらなかった。高齢者は、保護され水分や食事なども十分にとることができたからではないかと見る。

血栓症のサインはあるのか。奈良県立医科大学教授の嶋緑倫(みどり)さん(小児血液学)は、ふくらはぎの痛みやむくみ、突然の胸の痛みや歩行時の息切れ、冷や汗、激しい頭痛や突然の手足の麻痺などを挙げる。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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